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第81話 宮廷の夜(4) お夜食できた

 第四騎士団の部屋のドアが開けられ、盆を持ったシールラとレリエルが戻って来た。 「キュディアス様、アレス様お待たせしましたあ!お夜食のお時間ですよぉ!」 「おー、サンキュー、シールラちゃん!美味そうな匂いだ」 「リゾットです、レリエルさんと二人で作ったんですよお!ほらテーブル、地図とか片付けて下さい」 「ほいほい」  シールラはリゾットの入った木の皿をキュディアスに差し出した。 「見てください、この星型ニンジン!かわいいでしょー、シールラ切ったんですよぉ」 「イイねえ、さすがシールらちゃん!」 「はい、あーんしてください!」  シールラはスプーンでリゾットをすくってフーフー息を吹きかけると、腰をかがめたキュディアスの口に入れる。 「おいしいですかあ?」 「おいひい!シールラちゃんの彼氏は幸せもんだなぁ。そろそろ俺に乗り換えたらどうだ?」 「もお、キュディアス様ったらすぐそういうこと言って~!本気にしちゃいますよぉ?」 「本気にしちゃってよ~」  ヒゲとメイド(男)のチャラい会話を尻目に、レリエルが椅子に座るアレスに木皿を手渡した。 「は、はい、これ、アレスの……」  レリエルは何故か妙にモジモジした様子だ。  毎日自宅アパートでやってることなのだが、城で、といういつもと違う状況が照れ臭いのかもしれない、とアレスは思った。 「おう、ありがとな。昼に戦闘もしてんのに、悪いな」 「いや、却って気が紛れた。楽しかった」  レリエルが答える。アレスはスプーンでリゾットを口に運んだ。   「うん、うめえ!そうか楽しかったならよかった。シールラと仲良いんだな?」 「一応、友達……だからな……」  友達、という単語を気恥ずかしそうに使ったレリエルを、アレスは見上げた。 「ほお……」 「べ、別に僕はなんとも思ってないけどな!あいつが友達だって言ってくるんだっ」  結んだ後ろ髪をきゅっとつかみながら目線をそらす、照れ隠しの仕草。アレスの心に、なんとも言えない嬉しさがこみ上げた。 (前は、友達いないって言ってたよな……) 「そっか、よかった」  その時、キュディアスのデスクの中から「キンキンキン」という、硝子を擦るような音が聞こえた。 「おっと通信鏡が鳴っている」  キュディアスは口を拭き拭き、デスクに駆け寄り、引き出しを開ける。  デスクの中の楕円形の鏡に、宰相のジールの顔が映し出されていた。 「ああ、宰相ですか。遅くまでお疲れ様です」  鏡の中のジールが答えた。 「それはお互い様ですよ。ちょっとお聞きしますが、レリエル君はそちらにいますか?」 「レリエル?いますが」 「良かった。私の部屋まで来るよう、お伝え願います。あ、レリエル君一人でお願いします。アレス君はお忙しいでしょうから」 「レリエルのみ……?分かりました」  通信は切れ、鏡の中のジールが消える。  内容を聞いていたアレスは、怪訝そうな顔で立ち上がった。 「宰相がレリエルに?なんの用でしょうか」  あえて一人、と要求して来たのが気になった。 「さあ、なんだろうなあ。ま、というわけで行ってくれ、レリエル」  レリエルはちょっと不愉快そうに、 「宰相ってあの、女みたいな顔してる、感じ悪い上官だよな」  キュディアスが吹き出した。 「そぉれ、絶対に宰相の前で言うなよ?あの人あれで意外に女顔気にしてるらしいからな。片眼鏡も実は度無しで、女顔隠しの為らしいぞ。つーか、お前が言うなっての!」 「や、やだキュディアス様それ本当ですかっ!?シールラ、お友達みんなに言いふらしたくてたまらない気持ちですううう!」 「うわあっ、やめてくれシールラちゃん!頼むここだけの話なっ」 「えー?残念ですう~。TiTI(ティティ)の見出し間違いなしのニュースバリューありますよお?」 「ティティ……ってあれか!メイドちゃん達が作ってる新聞か!ほんとそれだけはやめてくれえ」 「TiTI(ティティ)」というのは、トラエスト城のメイド有志が独自に作っている、週一発行の新聞の名前である。城内の下世話な噂話満載で大人気、らしい。 「ジール様お美しいからファンも多いけど、たまにムッチャ感じ悪いからアンチも同じくらいいて、結構注目度高いんですよお!残念ですが内緒にしておきますですう」  レリエルは肩をすくめた。 「まあ、いい。行ってくる」 「おう、頼むわ」  キュディアスが手を振り、レリエルは部屋を出て行った。  閉まる扉を見つめ、アレスは眉間にしわを寄せる。正直、非常に不安だった。 「大丈夫でしょうか、レリエルと宰相二人きりなんて」  キュディアスが鬚の生えてる顎の先端をなでつけた。 「んー、まあ平気だろう。レリエルは確かに天使だが、人を傷つけたりしない奴だ。お前が一番よく知って……」 「レリエル、宰相にひどいこと言われたりしないだろうか」 「……あ、そっち?そっち目線な感じ?」  シールラが手と手を絡めてうっとりと目をつぶった。 「もお、アレス様心配性!過保護愛、素敵ですう~~~!」

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