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第99話 監獄(4) vsラファエル・ガブリエル

「誰だお前らは、他の天使と違うな。ミカエルと似た雰囲気(オーラ)……」 「さ、三大天使のラファエル様とガブリエル様だ!」  ラファエルは二人を指差しした。 「お前たち霊体化防御(エクトプラズマイド)してるね。俺、それあんま好きじゃないんだ。なんでか分かる?生身の肉体(からだ)が、好・き・だ・か・ら♪てことでさぁ……ひん剥いて、いい?」 「なに……」  ラファエルはシュッと人差し指を斜め上に払いながら、術名を唱える。 「――呼肉の風咒(ヌンガ・ハーヴァ)」  小さな竜巻のようなものがアレスとレリエルの周囲に発生した。 「なっ」  アレスの知らない魔法だった。狼狽えるが、痛みは感じない。  竜巻が消えると、アレスは自分の知覚が普通に戻っていることに気が付いた。  煙を吸ってゲホゲホと咳き込む。  霊体化が、解除されていた。 「ほうら、そっちの方がずうっと素敵だよぉ!いっぱい傷つけたくなるううーーーーー!!」  ラファエルは手にした鞭をぶるんと振るった。緑色で沢山の棘の生えたそれは、イバラの蔓のようだった。だが硬質な光沢があり、ある種の金属製であることを窺わせる。  体を横に捻ってかわしたアレスの頬に、一文字の傷が描かれ血が滴った。  剣を抜き、間髪入れず繰り出された次の鞭を弾いたが、表情は緊張に強張る。煙に巻かれている状態なので、鞭の軌道が見にくかった。 「アレス!」  レリエルが叫んでラファエルに(セフィロト)攻撃を打とうとした。  しかし突き出したレリエルの右腕に、水刃が飛んできた。いくつもの水の筋が、刃と化して皮膚をぱっくりと裂く。大量の血が流れ出した。 「つあっ……!」 「神を裏切った罪深き背信者、レリエルさんのお相手は私がして差し上げます」  そう言って冷たく笑うガブリエルを、レリエルはぐっと睨みつけた。 「レリエル大丈夫か!?」 「あれー?余所見してる場合かなー?」  ラファエルはアレスにブンと鞭を振るってくる。 「くっ……」  アレスは煙の中、トリッキーで把握しずらい鞭の軌道をなんとか捉えて弾き返した。  一方、レリエルは流血する自らの右腕に左手をかざし、 「――治癒の咒(ナサティーヤ)」  術名と共に傷口がオレンジ色の光に照らされた。みるみるうちに傷が塞がっていく。ガブリエルがふっと笑った。 「へえ、なかなか優秀な回復咒法(じゅほう)ですね」 「……神域外で使えなかった咒法も、ここでなら使える……」  咒法(じゅほう)とは、天使の使う魔法のことである。  神気(プラーナ)のない「汚い空間」である神域外では、レリエルの力は大きく制限されていた。だが神気(プラーナ)に満ちた空間に戻ったことで、本来の力が完全復活していた。  ガブリエルの放つ水刃がレリエルに向かってビュンビュンと飛ぶ。レリエルは持ち前の身軽さで水刃をかわすが、やはり煙が邪魔なようで、かなり危なっかしかった。    ラファエルの鞭を剣で辛うじていなしながら、アレスはやっと思いついた術名を叫んだ。 「恵の天水(アマンドスイ)!」  頭上に雨雲が立ち込め、地面に叩きつけるような大雨を降らした。  視界を邪魔する煙が、消失する。  視界がクリアになった。  ただしその場にいる者全員、ずぶ濡れになってしまったが。  ガブリエルは 「クシュン!……寒いです」  ラファエルは 「やだ何すんだよ人間、濡れ透け狙いー?エッロ!」 「まさか農業用の魔法を使うことになるとはなっ!」  言いながらアレスは、宙をしなる鞭を見事にくぐり抜け、ラファエルの懐に入った。  そのびしょ濡れの体に剣を切りつける。  が、ラファエルの左手に握られた剣で受け止められた。  アレスは舌打ちする。 「二刀流か、用意がいいな!」  アレスはギリギリと剣を押し付ける。ラファエルは左手でそれを押し返しながら、にいと目を細める。 「ふふっ、アレスちゃんだっけ?間近で見るといい男だねえ~。水も滴る、爽やか坊や♪俺の好みじゃないけどっ」  アレスの力がラファエルを凌駕し押していく。崩せる、と思った時。  ラファエルが鞭を持つ右手をくいと動かした。イバラの蔓のごとき鞭が、シュルシュルとアレスの体に巻きついてきた。  アレスはクソっと悪態をつくと、鍔迫り合いを止めて跳ね、巻きつこうとする鞭を剣で振り払った。  後方に跳ねて間合いを取って睨みつける。  その時だった。  空中から声が降ってきた。 「ら、ラファエル、ガブリエル、てめえら……!」  ミカエルの声である。声が怒りに震えている。 「何やってんだてめえら!俺様の獲物奪って楽しんでんじゃねえええええ!舎弟は舎弟らしくすっこんでろッ!」 「やだミカちゃんいたのー?って舎弟じゃないし!」  ラファエルは間合いを離れたアレスに再び鞭を振るった。アレスはそれを剣で弾きながら、左手を突き出し、念を放つ。 「大破魂(メガ・クリファ・セフィラ)!」  透明な球体が空間を歪ませながら直進し、ラファエルの魂を射る。ラファエルは片眉をあげた。 「いって!人間のくせに(セフィロト)攻撃とか生意気!まあ、魂構成子(セフィラ)一個も割れてないけどねっ」  ガブリエルは首を傾げ、 「しゃてい……。って、なんですか?それにしても、ちょこまかと鬱陶しい出来損ないですね」  ガブリエルの周囲に、夥しい数の氷の(つぶて)が浮遊した。  と思うや、とても避けきれない数の氷の礫が、レリエル目掛けて発射された。  レリエルは大地に向かって両手を伸ばし術名を唱えた。 「土壁の咒(ドハラーテ)!」  レリエルの前に地面から土の壁が出現し、氷の礫を受け止めた。  四人の戦いを、空中停止飛行中のミカエルが、怒りにわななきながら見下ろしていた。  ミカエルは、癇癪を起こした。 「無視……してんじゃ……ねええええええええ!」  ミカエルは両手を掲げ、手の中に火の球を作ると、地面に向かって放り投げた。  先ほど、監獄を粉々にしたのと同レベルの超大爆発魔法だった。  アレスもレリエルもラファエルもガブリエルも、地面に出現した半円状の光と衝撃波に晒された。  また、もくもくと煙が上がる。  場は、突然の静寂となった。  やがて煙の中から、四つの声が聞こえてくる。 「ミカちゃんひっどーーーーい!俺たちまで巻き込まないでよー!」 「ミカエルさん、信じられません!」 「さ、さんきゅーレリエル、また霊体化してくれて」 「間に合ってよかった……」

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