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第104話 旅の宿(2) 仲間たち

「あ、そうだ」  アレスはリュックの中をごそごそして、通信鏡を取り出した。霧の内外でも通信できるよう、通信力を強化した特製品だ。 「早く連絡しないとな。きっとみんな無茶苦茶心配してる」  アレスは鏡に指で文様を描いた。対になる通信鏡はキュディアスに預けてある。  鏡面がぐにゃりと歪み、向こう側の光景が映し出された。一刻を置き、すぐにドアップで顔が表示された。   ……シールラの顔が。 『アレス様ああああ!!レリエルさんどうなりました!?レリエルさん助け出せました!?もうシールラ心配で心配でオレンジも絞れないんですうううう!レリエルさんはどうなったんですかあああああああ!?』 「うわわっ」 「シールラ!?」  レリエルがアレスの隣に座って、鏡を覗き込んだ。すると、 『あきゃあああああ!レリエルさんいるじゃないですか、良かったああああああ!』 「あ、うん、心配してくれてありがとう……」  レリエルがはにかんだ表情を見せる。  シールラの後ろからキュディアスの声が聞こえた。 『ほんとか!?』  シールラが画面半分に寄って、もう半分にキュディアスの髭面が現れた。 『おお……!アレス、レリエル、良かった無事なんだな!』 「ご心配おかけしました」 『どういう状況だ?』  聞かれて、アレスはこれまでの状況とこれからの計画を説明した。キュディアスは神妙な顔つきで頷いた。 『天空宮殿への門を開くために五ヶ所の装置破壊を行うと……。分かった、やってくれ。天界開闢とやらを止める手立ては、掴めそうか?』 「すみません、それはまだ……。でも天空宮殿に行けば、必ず分かるはずです。天界開闢の全てを知るという熾天使と神がそこにいます」 『そうか……。その滅法強いミカエルとの戦闘は今後、全力で避けろ。レリエルもいざとなったら瞬間移動で二人で逃げてくれ』 「瞬間移動じゃなくて光速移動(フォトン・スライド)だけど……。分かった」 『頼んだぞ、アレス』 「はい!」  通信は切られた。  レリエルが何やら、ぼうっとしている。 「どうした?」 「あっ……。いや、シールラ、あんなに心配してくれてたんだ、って……」 「友達だから当然だな」  アレスはその頭を撫でてやる。レリエルは嬉しそうに微笑んだ。 「うん……」 「腹減ったな、食事しよう。味気ない栄養強化クッキーしかないが……って、そうだレリエルの食事はどうすれば!そ、そこらへんの天使畑からかっぱらってくるか!?」 「い、いいよ別に。僕は食べなくても平気だ」 「いやそんなわけにいかない!クッキー食うか?ちょっと成分が謎だが。でもああ、無理に食べて腹を壊されても困るしな……」  言いながら立ち上がり、床に置いたリュックをごそごそして、あるものを見つけた。  アレスは口をおの字にさせながら、その袋を取り出し、高々と掲げた。 「ドライフルーツ……!しかも結構な量!しかも袋にちゃんと『レリエル用』って書いてある……!」  ヒルデの達筆で、しっかりレリエルの名前が書かれていた。 「えっ……」  レリエルは信じられないという顔をする。  アレスはそんなレリエルにドライフルーツの袋を渡しながら、 「あいつ、やっぱりな!裏切ったなんて全然思ってないじゃないか!いけるか、ドライフルーツ?食べて見てくれ!」 「ありがとう……」  レリエルは少しきまりが悪そうに受け取った。赤黒く萎びたプラムを一つつまみ、齧る。 「美味しい……」 「それはよかった」  プラムをモグモグしながら、レリエルは涙ぐむ。 「ど、どうした?」 「みんな、僕のこと心配してくれたんだな。黙って勝手に出て行った僕のこと、疑いもしないで……」  アレスは微笑んだ。 「そりゃそうさ。レリエルは俺たちの仲間なんだから」 「僕は天使なのに。人間の敵なのに……」    アレスはその頭をよしよしと撫でた。レリエルの目から涙がこぼれ落ちて、同時に口元が幸せそうに綻んだ。 「はは、食って泣いて笑って、か。忙しいなお前は」 「う……」  レリエルは恥ずかしそうに顔を伏せる。  アレスはその肩を抱き寄せ、手で濡れた頬を拭い、啄ばむようなキスをした。あどけない微笑を見つめながら、 「じゃ、このまんま夕飯にするか」  レリエルは潤んだ瞳を細めて頷いた。 ※※※

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