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第1話 軟禁されました
恋という感情をいつ覚えたのかわからない。気が付いたらそこにあって、体を浸食していた。
そして、いつの間にか覚えていたその感情は、自然に降りてきて彼の事しか考えられなくなった ——
フィスト・グロスは俺が軍に所属していた時、ディアボルスという魔物討伐でバディを組んでいた男だ。
組んでいたのは短い期間で、俺が軍を辞めたのでそれ以来会っていない。
そんなフィストと再会したのはふと立ち寄った酒屋だった。
「もしかして、ヤンか?」
「フィスト?!久しぶりですね。どうしてここに?」
驚いた、まさかこんなところで再会するとは思っていなかった。
「言ってなかったか?ここは俺の生まれ故郷だよ」
フィストは持っていたビールを持ち上げそう言った。少し、ふらついていてるもうすでに酔っているようだ。
「そうでしたっけ……それにしても懐かしいです。軍で一緒に働いていた時以来ですよね」
そう言って俺も店員に酒を頼み、思い出話しをしながら一緒に飲み始める。
お酒を飲むと懐かしさに話も盛り上がった。
「それにしても、フィスト。少し、雰囲気が変わりましたね」
「そうか?」
しばらく飲んだ後、俺はふと聞いた。
「少し、やつれたような?何かありましたか?」
そう言いながら、昔のフィストを思い出す。フィストの第一印象は軍人らしくない奴だということだ。
いや、正確に言うと軍人らしすぎて軍人に見えないと言った方がいいのかもしれない。
あまりにも人間離れしていたからだ。
爽やかな笑顔とモデルのような容姿、広告のポスターに描かれた軍人がそのまま出てきたような見た目。
しかも礼儀正しく、優しくて魔力も高く実力もあり仕事も出来る。
実際に軍に入れば分かるが軍は荒っぽい仕事が多いのもあって、軍人には粗暴な奴が多い。雑で、とりあえず腹が立ったから殴るみたいな直情的な奴もいる。
だから、フィストという存在は嘘っぽさすらあった。しかも、みんなからも慕われ、上司からも頼られて、いい大学を出ているので将来を約束されているエリートだ。
知れば知るほど、こんな人間が本当にいるんだと感心してしまった。
実際に話しをしてみても、穏やかで階級が下の俺にも丁寧に話しかけ接してくれる。
本当に隙のないいで立ちで、制服を着崩すこともなく、無精ひげすら見たことがなかった。
だから、今のフィストの姿は意外だった。
明らかにやつれて疲れたような表情。無精ひげも生えているし、服もヨレヨレだ。
お酒をかなり飲んでいて酩酊しているが、軍時代はそんな姿も見たことがなかった。
「ちょっと今、妻が実家に帰っていてね」
フィストは自嘲するように言った。
「ああ、そう言えば昔、婚約者がいるって聞きましたがご結婚されたんですね。もしかして喧嘩でもしたんですか?」
俺は頷いてそう言った。婚約者の事はなにか会話の流れで聞いた気がする。辞める時には故郷に戻って結婚するとも話していた。
「いや、……実は妻が妊娠してね。大事を取って妻の実家に帰っているんだ。しかし、その所為で生活が荒れてしまって……」
フィストは少し恥ずかしそうに言った。俺はその言葉で納得した、家事を奥さん任せにしていていたから留守になって生活が荒れてしまったということか、よくある話だ。
「なるほど。それは大変ですね。でもおめでたいじゃないですか。お父さんになるんですね」
「ああ、ありがとう。そう言えばヤンは確か店を持つために軍に入ったと言っていたな。あれからどうしたんだ?」
フィストが思い出したように言った。
「ええ、実はこの町に来たのもその下準備のためなんですよ」
俺はそう答えた。
そうなのだ。フィストの言う通り、俺が軍に入ったのは手っ取り早く金を稼ぐためだった。
無事そのお金が溜まったので軍を辞め、それを元に今は商売を拡大し念願の店を持とうと旅行もかねて物件を探しに来たのだ。
「じゃあ、しばらくこの街にいるのか?」
「ええ、数日泊まる予定で、いい物件があればもっと伸びる可能性もあります」
「その間は宿に?」
「はい、旅行もかねているので、しばらくのんびりするつもりです」
「それじゃあ、宿代も馬鹿にならないんじゃないか?良かったら俺の家に泊まらないか?」
「え?いいんですか?」
「ああ、さっき言っただろ。今一人で寂しいからさ」
フィストは気を使わせないようになのか、軽い感じでそう言った。
「そんな事言って、俺に家事をやらそうって事じゃないですか?」
「バレたか」
そう言ってフィストはいたずらっぽく笑う。
「どうしようかな」
「冗談だよ。まあ、ちょっと手伝ってくれるとありがたいがな」
「わかってますよ。むしろ家事くらいで泊めてもらえるなら、ありがたいです」
そうして、俺はフィストの家に泊めてもらうことになった。宿に寄ってキャンセルして荷物を回収すると車でフィストの家に向かった。
「ここが、フィストの家ですか?」
車を留めさせて貰うと、家を見上げてそう言った。
「ああ。一人だとちょっと広すぎるんだがな」
「確かに。でもお子さんも出来るなら、きっとすぐに丁度良くなりますよ」
フィストの家は静かな住宅街の一角に建てられていた。二階建てで玄関と車のガレージに小さめだが庭もある。
「そう言えば、二人で過ごすなんて、ディアボルス討伐の時以来だな」
「そうですね」
俺はそう言いながら思い出す。
軍には大きく二つの役目がある。
それは街や国の防衛と森や山で発生する怪物ディアボルスを倒すことだ。
俺達が所属していた軍施設は、怪物から首都を守るため建てられた要塞の一つだった。
ディアボルスは森や山で自然発生する。しかも、体が大きく危険で人をると襲ってくる。
軍はそいつらから人々を守るためにいるのだ。
討伐は二人一組で森に入り行う。
ディアボルスは動きが素早く体も大きく触れると肌が爛れて危険なので、大人数では逆に危険なのだ。だから、機敏に動ける人数で戦うのが推奨され。一番最適なのが二人なのだ。
二人にはそれぞれ役割がある、一人はアタッカーで積極的に攻撃を加える。もう一人はその補佐だ。素早く移動するためにバイクを運転したり、弾の補充や武器の交換。それ以外にも食事を用意したり怪我の治療もする。そんな役割で山に籠り、ディアボルスを探し駆除する。
フィストと初めて出会ったのは三年前、俺が所属していた軍施設にフィストが配属されてきた。
それで、俺がフィストのバディとしてあてがわれた。
バディになった理由はフィストが配属された時、俺は一年ほど要塞に所属していて、補佐役としてそこそこ経験があったからだ。
教えると言ってもフィストの方が経歴が上で優秀なので、どちらかというと要塞のことや土地の事を教えるのが主だった。
そんなたまたまと言えるきっかけで、俺達は森に入り長い時間一緒に過ごすことになったのだ。
「すまない、少し散らかってるが」
フィストの家に入るとフィストがそう言った。
「別に気にしませんよ。……って本当に散らかってますね」
部屋に入って俺はそう言った。
確かに部屋は荒れていて少し苦笑する。とはいえ男一人でいたらこうなるのはそこまで不思議じゃない。
それに、足の踏み場もないくらい荒れているわけでもない。
「ビールとピザを買ってきた。もう少し飲もう」
フィストはそう言って、ピザの箱と数本のビールをテーブルに置いてそう言った。
「いいですね」
酒場でそれなりに飲んでいた俺は笑ってそう答える。本当なら荷物を片づけたりした方がいいのだろうが、時間に追われているわけでもない。明日でもいいだろう。
そうして、俺達ソファーに座りは飲み直す。酔いもあって会話の中身は思い出せないが話しは盛り上がった。
しばらくして気が付くと俺はソファーで横になっていた。頭がふわふわしていて相当飲んでしまったようだ。フィストに言ってベッドを借りないとと考える。
それと同時に誰かに上からのしかかっていることに気が付いた。
「フィスト?」
のしかかる体は重くて熱い。
「ヤン、いいか?」
「え?いいかって……」
頭がぼんやりして上手く考えがまとまらない。そうしているうちにフィストの手が下から上にするりと撫でる。意味深な触り方で体にゾクっとしたものが走る。
思わず身をよじると、今度は胸から腹の方に下がり、ズボンの上から股間を揉む。
「っん……」
最近こういったことはご無沙汰だったので、体が思わず反応した。
人の体温も久しぶりで心地がいい。
足にフィストの股間があたっていてそこも硬くなっているのが分かった。首筋に唇のが落ちる。もうすでにフィストの息は荒い。
フィストは俺の返事を聞く気はあまり無いようだ。体を探る手は服を脱がそうとしている。
「フィスト、本当にするのか?」
目が覚めた俺は思わず腕を掴み言った。しかし、酔いもあって力は入っていない。
「駄目か?いいじゃないか、するのは二回目だ」
「あー、まあ……」
俺はそう答えた。確かにこんな事をするのは初めてじゃない。ぼんやりそんなことを考えていたら、ズボンを完全に脱がされていた。
フィストはシャツをたくし上げ、外気に反応して立ち上がった乳首に舌を這わせた。
ざらりとしたその感触にゾクゾクした快楽が駆け抜け、細かいことを考える事が面倒になってきた。
何か大切なことを忘れている気がしたが、俺は返事の代わりに、フィストの体に腕を回す。
大きめだが男二人だと狭くなってしまったソファが、ギシリと鳴った。
せわしなくフィストの手が体を探り乱暴にキスをする。
足を大きく広げられフィストの指が入ってきた。
「狭いな。入るのか?」
「っん、痛い。久しぶりなんです。ちょっと待って下さい解さないと」
俺はそう言って、指を濡らし指で解していく。
「意外だな、慣れてそうなのに」
「うん?どういう意味ですか?」
「よくこういう事してるんだろ?」
「何言って……そんなこと」
「もうそろそろいいだろ」
「ちょ……」
フィストはそう言って、解していた俺の指を引き抜き無理矢理入ってきた。
「っく……きつい」
「っ痛い。だからまだですよ……」
そう言ったのにフィストは強引に腰を推し進める。
最初は痛かったが、太い部分が入ってしまうとスムーズに入った。酔っていて少し感覚が麻痺しているのか痛みもそこまでない。
「中……締め付けてくる」
「うぐ……っ」
フィストは少し顔をしかめるとペロリと舌を舐め、一気に根本まで推しこんだ。
フィストの物は大きくて少し苦しい。しかも、根元まで押し込んだ途端に激しく動く。
「フィスト……はげし……っあ……っあ」
流石に辛くなって腕で突っぱねようとしたが、フィストに手を捕まれ、ベッドに押さえ付けられた。
「中、ぎゅうぎゅう締め付けて絞りとられそうだ。やっぱり、いつもこうやって男をたらしこんでいるんだろ?」
「っん、え?なに……っあ」
激しい動きに翻弄されてフィストが何を言ったのかよく分からなかった。
最初は痛みしかなかったが、硬い所が内壁を擦りジワリと快楽が沸き上がって来る。
「ほら、気持ちよさそうな顔して。ヤンはこういう事が好きなんだ」
そう言ってフィストは何故か苦しそうな表情になる。
「っあ……ああ。だから、なんのこと……」
「好きなら、たっぷり味あわしてやるよ」
「っあ!……っあ、っあ!」
フィストはそう言うとさらに激しい動きになる。
そこから声が枯れるまで、その行為は続いた。
**********
「っ……いてて……」
翌朝、俺は頭痛と共に目が覚めた。もぞもぞと起き上がり自分が裸だと気が付いて、昨日何があったか思い出す。
久しぶりにしたせいか所々痛かったが、しだいに気持ちも良くなって、途中記憶も曖昧だ。
いつの間にかベッドにも移動していたようだ。シーツがクシャクシャになっていて、何度かした形跡が残っている。フィストは居ない。
「あ……」
その時、ふとベッドサイドテーブルに置いてある写真が目に入った。フィストと奥さんらしき人が写った写真だ。
それで、一気に目が覚めた。それと同時に血の気が引いた。
「そう言えば、フィスト結婚してるんだった……もしかして、これ不倫なんじゃ……」
もしかしなくても完全に不倫だ。しかも夫婦のベッドで何度もいたしてしまった。奥さんが今いないとはいえ、これはかなりやばい状況なのでは。
俺はとりあえず落ち着くために、急いで服を探す。
服は主にソファの周りに落ちていた。テーブルには食べかけのピザとビール。元々散らかっていたが、酷い有様になっている。
フィストの奥さんがどんな人か分からないが、これを見られただけでも不味いことになりそうだ。
「ここに泊めてもらう予定だったけど。流石これ以上ここにはいられないよな……」
奥さんがいつ帰ってくるかわからないが、泊めて貰うのは流石にまずい。
酔った勢いとはいえ、良くなかった。それにしてもなんだってフィストはこんな事をしたのか。
しかし、恨み事を言っても仕方ない。してしまった事は変えられないし自分も共犯だ。
なんとか服を全部見つけられたので着る。
「これから、もう一度宿を探すか……」
同じ宿はまだ空いているだろうか。
「ヤン、どうしたんだ?」
ゴソゴソしていたからフィストが目を覚ましたようだ。下着とナイトガウンを羽織った状態でやってきた。
「あ……おはよう。フィスト」
酔いも醒めたこともあって気まずい。目をそらしつつさらに言った。
「泊めて貰うって言ったけど、流石にあれだから、他に宿を探すよ」
そう言って荷物を纏める。幸い荷物はまだ広げる前だったからすぐに移動できそうだ。
「何言ってるんだ?今から探すのは大変だろ?遠慮することないぞ」
「遠慮っていうか……」
昨日のことなんて何もなかったように言うフィストに戸惑う。
「何か問題でもあったか?」
「問題ないわけないじゃないですか。とりあえず俺は行きますから……」
そう言って俺は持ち込んだ荷物をそのまま持って玄関に向かう。
「ダメだ」
「え?ダメって……っちょ」
フィストはいきなり俺の手を掴むと寝室に戻った。そしてベッドに倒され、なんだと思っていると手錠を持ってきてベッドの柱と俺の腕を繋いだ。
「よし、これでいい」
「はぁ?い、いや!良くないだろ!何考えてるんだ!」
手錠をガチャガチャ揺らしてみたが完全に鍵が掛かっている。フィストはそれを見て満足そうな表情になるとどこかに行ってしまった。
「どういう事だ……」
こうして俺は突然軟禁されてしまった。
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