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第6話 彼の過ち
「昔のこと思い出してみたけど、フィストがこんな事する理由が特に思い当たる事がない……」
俺は寝転がっていたベッドから起き上がり、そう呟いた。
無理矢理した事を怒っていたのだろうか。でも軍施設に戻った後、何度も話しをしたがフィストからは何も言われなかった。
軍を辞めた後は商売を始める準備をしていて軍時代の事なんて思い出しもしなかったし、フィストとも特に連絡も取ってなかった。
「俺は関係ないところで何かあったのか?」
もしそうなら、考えても分からなさそうだ。
「……まあ、とりあえず現状をどうにかしないと」
俺はそう言ってあらためて手錠を見下ろす。
繋がれているベッドの柱は木で出来ている。力ずくで折る事は出来そうだがそうすると音でフィストにバレてしまいそうだ。
「どうするか……ん?」
ふと床を見ると光るものがあった。小さな鍵だ。
「まさか、手錠の鍵?」
手に取って試しに使ってみる。
「……開いた……」
流石にこんなところに都合よく落ちているとは思わなかったが、使ってみたら簡単に開いてしまった。
手錠の鍵は大抵もう二つセットになっているのだが、その一つが落ちていたようだ。
なんでこんなところに落ちているのかわからないが……。
しかし、このチャンスを逃す手はない。今のうちに逃げよう。
俺は手首をさすりながら立ち上がり、そっと部屋のドアを開け。外の様子を見回す。
どうやらフィストは近くにはいないようだ。
「よし、今のうちだ」
俺はそう言って玄関に向かった。
「ヤン。どこに行くんだ?」
「ヤバい!」
ドアから出ようとしたところで、何か作業をしていたはずのフィストが現れた。
「ヤン。待て!」
そう言ってフィストに手を掴まれてしまった。俺は必死に振りほどく。
フィストはその表示によろけ、落ちていた瓶を踏んで転んだ。
「っ……」
背後で倒れる音と何かが割れる音がする。
俺は今しかないと思ってそのまま外に飛び出した。外は明るく、平和そのものの住宅街だった。
とりあえず俺は走って家から離れる。
「荷物を置いたままだけど、仕方ないか……」
道を渡り小走りしながら呟く。
その時、道でたばこを吸っていたおそらく近所に住んでいる男性が俺の背後を見て言った。
「おい、あんた大丈夫か?」
その声で思わず振り返る。そこには、さっき転んだせいなのか頭から血を流しパンツとバスローブだけ羽織ったフィストが散弾銃を持って追いかけてきていた。
しかも、空に向かって銃を一発撃った。
「ちょ……フィスト」
「おい、何してんだあいつ!ん?あんた知り合いか?」
男は驚いて、俺にそう言った。
「い、いや……」
「ヤン、待ってくれ」
フィスト必死な顔をしながら、若干フラフラした足取りで道路を渡る。その時、車が走ってきてフィストにぶつかった。
「フィスト!」
流石に慌てる。しかし、どうやら軽くぶつかっただけのようだ。フィストはよろけて道の真ん中で倒れた。車の運転手は危ないと怒鳴って、そのまま行ってしまった。
「おい。どうする?警察を呼ぼうか?」
さっき声をかけてきた男性がそう言った。
「え?い、いやそれはいい……」
警察なんて、そんなおおごとにはしたくなかった。
俺は、慌ててフィストのところに向かう。車にぶつかったのだ、流石に心配になる。
「フィ、フィスト。大丈夫か?」
そう声をかける。フィストは少しめまいでもしたのか頭を振っている。
しかし、見る限り大きな怪我は無さそうだった。
「ヤン、良かった捕まえた」
手を差し出すと、フィストは嬉しそうな顔になり俺の手を掴んでそう言った。
「あ」
しまったと思ったがフィストはそのまま立ち上がると、ふらふらしつつもそのまま家に向かう。
失敗したと思ったがもう遅そうだ。
家に入ると、フィストは寝室ではなく半地下の物置にでも使っていたような部屋に俺を連れて入る。
「さっき、ヤンが不倫がどうとか言ってたからここにベッドを置いたんだ」
フィストは満足げにそう言うと、俺にまた手錠をかけた。
ベッドが違えばいいという話ではないんだけどなと思いつつ、俺は諦めてそのベッドに座た。フィストがさっきまで何かゴソゴソしているなと思ったが、ここの部屋を片付けていたようだ。
「フィスト……あの……」
「そうだ、また逃げられないようにしないと」
フィストは俺の言葉を聞いていないようで、何かを思いついたのか立ち上がると、どこかに行ってしまった。
しばらくすると、半地下に唯一あった小さな窓をなにか板のようなもので塞ぎだした。
フィストは釘でガンガン打って塞ぐと、満足げな顔をしてまた家に戻っていった。
俺は立ち上がって、塞がれた窓の方に向かう。
「本当にフィストは何がしたいんだろう?」
俺を逃がしたくないと言ったが、さっきから詰めが甘すぎる。変な格好のまま外に出て通報されてもおかしくないことをするし。
塞いだらしい窓は良く見ると、窓に直接釘が刺さっていないので簡単に開くし。板も少し力を入れれば取れてしまいそうなくらい下手くそに打ち付けられている。
「そもそも、どうやってさっき手錠を解いたのか考えないのか?」
そう言ってさっき拾った手錠の鍵をポケットから取り出す。一応、鍵はポケットに入れておいたのだ。手錠はいつでも外せる。
しかも、フィストは部屋のドアも鍵を掛けずに出て行っていた。
そっと部屋のドアを開けて様子を見てみる。
フィストはさっき使った道具を片付けているようだ。ご丁寧に外につながるドアも開いたままだ。
どうやら逃げようと思えばすぐに逃げられそうだ。
しかし、俺は部屋に戻ってベッドに座った。
手錠の鍵は一端ベッドのマットレスの隙間に隠しておくことにする。これがあれば、いつでも逃げられる。
「それより、フィストの方が気になる……」
あの変わりようと、なんで俺に執着して軟禁までするのか。それに、さっきからの行動を見ていると、なんだか抜けていて心配になってくる。
「まあ、敵意は感じないから殺されるなんてことはなさそうだけど……」
俺は一時期とはいえ軍に所属していたお陰か、向けられた敵意や害意はなんとなくわかる。
フィストにはそれは全く感じない。むしろ穏やかだし、人を監禁している緊張感すらない。
散歩でもしようかってノリだ。
「ヤンおまたせ」
しばらくすると、フィストが笑顔で戻ってきた。
とくに待ってないんだけどなと思いつつ、どこかずれているフィストに呆れる。
フィストは嬉しそうに俺の隣に座って、俺の手に手錠がかかっているのを見てホッとした表情になる。
「よかった。もう逃げないでくれよ」
フィストは嬉しそうに俺の手を握り、そう言った。
「それより、フィストその怪我をどうにかした方がいいんじゃないですか?」
俺は複雑な気持ちになりながら言った。
フィストは転んだ時に出来たであろう傷から、相変わらず血を流したままだった。
「ああ、そうか……」
フィストは初めて気づいたように頭を触る。
「応急キットとかありますか?」
フィストに俺はそう聞く。
「ああ」
フィストは頷くとそう言って取りに行った。フィストは嬉しそうに俺にキットを渡す。俺は呆れつつも治療を始めた。
消毒をして血を拭う。血がダラダラ出ていて痛そうだったが傷はそんなに深くなかった。頭を怪我したから血が大げさなくらい出ていたのだろう。ガラスのかけらは入り込んでいないようだ。
「出来た」
「ありがとう、助かった」
フィストはニコニコしながら言う。俺はまた複雑な気持ちになる。その怪我は俺が原因だが、そもそも軟禁をしなければこんな事にはならなかった。
「フィスト、なんでこんな事をするんだ?」
「うん?何がだ?」
「なにって、俺を閉じ込めようとしてることだよ」
俺はそう言って手錠をジャラリと見せる。
「あー、そうだな……それは……」
フィストはそう言って俺の手を取り、何か考えるような表情になる。
何を言うのかと待っていたがいつまで経っても何も言わない。
「どういう事なんですか?」
「何だろうな……よくわからないな……」
フィストは俺の手首をぼんやり撫でながら言った。
「はあ?分からないって……ちょ」
フィストは困惑している俺にかまうことなく、触れていた手に口付けをしたかと思うと首筋や頬にキスし始めた。
「えーっと、フィスト?」
「何だ?」
フィストはこんな状況なのに不思議そうに聞いた。その間にもキスを落し服の下に手を入れる。
「何だじゃないです。やめて下さい」
「ダメなのか?」
俺はいつの間にかベッドに押し倒され、股間に硬い物が押し付けられていた。
「そりゃ……」
心底不思議そうに聞かれて、俺は言葉に詰まる。さっき不倫だからダメだと言ったがフィストにはあまり意味が無かった。昨日何回もしてしまったし、今更駄目だと言ってもあまり説得力もない。
迷っているとフィストはとうとう俺のシャツをまくり上げ、胸に舌を這わせ始めた。
「だ、だからダメですって」
「何でダメなんだ?」
「えーっと……昨日久しぶりにしたから、痛いんですよ……」
「そうなのか?」
俺は頷く。男とするなんて久しぶりだったし、フィストは結構強引にしたから痛かった。酒を飲んで酔っていたこともあり感覚があまり無かったが、酔いもさめた今、結構痛みが会った。
昨日の今日でするのは辛い。
「無理したら、ケツが裂けます」
「そうか、分かった……」
止めてくれるかと思って下品な言い方をしたが、フィストは気にした様子も無く動きを再開させた。
「何も、分かってないじゃないですか!」
「しなければいいんだろ?」
フィストはあっけらかんとそう言う。相変わらず手は止まらない。止めようとしたがたくし上げられたシャツを完全に脱がされ手錠をした腕に巻き付いたので完全に動けなくなった。
「そ、そういう問題じゃ……っん」
フィストはかがみこみ立ち上がった乳首に吸い付く。舌の腹で潰すように転がす。
「気持ちいいか?」
「ち、違う。これは昨日もお前が弄るから、擦れて痛いんです……んん」
「でも勃ってきた。やっぱり、気持ちいいんだ。ヤンはこういうの好きなんだろ?」
フィストはそう言って腰をぐりぐり押し付ける。
「ち、ちが……っあ」
刺激されたせいで、また体が反応してしまう。それを見たフィストは動きを止めるわけもなくさらに執拗に刺激を与え始める。手で硬くなったそこを揉むので少し濡れた感触がした。
昨日、何度もしたから敏感になっているのだ。
「っく……くそ……」
こうなったら、何を言っても止めてはくれなさそうだ。俺は諦めて力を抜く。
フィストは何が楽しいのか、そこらじゅうに舌を這わせ、俺がイッても止まる事はなかった。
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