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第8話 深まる謎
「そう言えば、他になにか足りないものはないか?」
俺をベッドに寝かせるとフィストが言った。
「足りないもの?」
「家に一人だと退屈じゃないかと思ってな。食料以外で何か足りない物はないかなと」
「……そうですね。今のところは大丈夫です。何かあったら言いますよ」
「そうか」
フィストはそう言いながらさっき言っていた通りワセリンを持ってきて、俺の足を開き塗りだした。
何度もしているから慣れてきたが少し恥ずかしい。
「っていうか、フィスト。今日もここで寝るんですか?」
「そのつもりだが、何か問題があるか?」
「いや、こんな狭いベッドで二人で寝るのは辛くないですか?っていうか夫婦の寝室にでかいベッドがあるんですからそっちで寝たらいいじゃないですか。このままじゃこのベッドそのうち壊れますよ」
今、寝ているベッドは安い組み立て式のパイプベッドだ。このベッドで男二人が激しい動きを毎日するものだから、いつ壊れてもおかしくない。
「でも、ヤンは寝室のベッドは嫌なんだろう?」
「だから、フィストがあっちで一人で寝ればいいでしょ?」
「それは嫌だ」
「そうですか……」
きっぱりと言われて、俺は返す言葉を失う。
これは何を言っても無理そうだ。話題を変える。
「そう言えば、俺を軟禁する理由わかりました?」
「ああ、そうだな……」
フィストは考えながら答えるが歯切れは悪い。
しかし、その間もワセリンを塗る手は休めない。しばらく待ってみたが返事は無く、諦めようかと思った時、フィストがポツリと言った。
「黒いものが……来るんだ……」
「黒い?ディアボルスのことですか?」
意味が分からない。
首を傾げ聞いてみたがフィストも分からないようで、何も答えない。
「違う……気がするが……よくわからない」
フィストはそう言ったあとまた黙ってしまった。一体どういう事何だろうかと思っていたら、フィストは身をかがめキスをしてきた。
「やっぱり、するんですね」
「ダメか?」
「いや……まあ、いいですけど」
俺はそう答えた。最初は乱暴なだけだったが回数を重ねていくうちに上手くなって、気持よさも上がっている。
嫌だと言っても結局する事になるから嫌がるのも面倒になって来た。俺がいいと言うと、フィストはさらに俺の足を開き、のしかかって来る。
「じゃあ……遠慮なく」
「本当に性欲が旺盛ですよね。こんな事をするなら風俗にでも行けばいいのに」
お金を払えば綺麗な女性が相手にしてくれる。フィストならただでもしたいという女性も多いだろう。不倫になってしまうかもしれないが、人を軟禁するという明らかな犯罪よりいいだろう。
それを聞くとフィストは眉を顰める。
「風俗なんてそんなふしだらなもの……良くない」
「良くないって……じゃあ、男の人でどうですか?そういうゲイが集まるところに行けば相手はいくらでも見つかりますよ」
俺はゲイではないからどんな奴がモテるのか知らないがフィストの体格と容姿なら困ることはなさそうだ。
「なんでそんな事を?俺はゲイじゃないぞ。男となんてするわけないじゃないか?」
フィストは心底不思議そうに言った。
「はあ?いや、何言ってるんですか。俺も男ですよ」
「え?ああ……」
驚いてそういうと、フィストはそういえばといった感じの顔になり俺の股間をぼんやり見た。
俺はフィストより少し小柄だし細い。しかし、男としては割とがっちりしているし間違っても女には見えない。
「ちゃんと付いてるでしょ?」
首を傾げて聞く。昔と考えが変わったのかと思ったが違ったのだろうか。じゃあ、何故、俺を軟禁してまでこんな事を何度もするのか。
「ヤンはもしかして、女なんじゃないか?」
「はあ?」
またフィストが変な事を言い出す。
「だって、ここに入れたら気持ちいいし、ヤンも感じてるじゃないか。女みたいだ」
フィストはそう言って後孔にまた指を入れかき回す。
「っんぁ……そ、それは何度もすれば男も感じるようになるんです……」
関節がいいところをこすり思わず反応する。何度もしたせいでフィストはどこが感じるのかも完璧に把握している。
「肌も綺麗だし胸も少し小さいけど、感度もいい」
フィストはそう言って、胸をやわやわと揉む。そして指で乳首をつまむとコリコリと刺激を与える。ここも、何度も刺激されるので体は勝手に反応してしまう。
すぐにぷくりと立ち上がる。
「っ……だ、だからそれも、何度もするから……」
「それに……」
フィストはそう言うと、立ち上がった自身をすっかり準備の終わった後孔にゆっくり入れる。二回目でワセリンも加わってスムーズに入ってきた。
そして、硬いカリの部分が感じるところを擦る。そして指では届かない場所も刺激されてまた、声が出た。
「っあ……あん……ああ」
「ほら、こうしたらこんなに可愛い……」
「っえ?か、可愛いって……っあ……あん……あ」
真剣な顔をして可愛いと言われ、思わずどきりとしてしまう。しかし、すぐにフィストは腰を動かし始める。
すぐに快楽がしたからせり上がってきて、俺は身悶えた。
「こんなに締め付けて離さないなんて、女と変わらない……」
フィストはそういって俺の顎を掴み、噛み付くようにキスをする。舌でぐちゃぐちゃにかき回し犯すように舌が奥まで入れられた。
息もできないくらいのキスに頭がぼんやりしてくる。フィストの腰の動きはどんどん早くなって、絶えず与えられる快楽に、考えることが面倒になってきた。
その後結局フィストは何度も俺を抱き。
シャワー前よりベトベトになったので。フィストに支えられて、またシャワーを浴びる羽目になった。
次の日、遅くまでしていたせいで目が覚めたのはお昼だった。
フィストは元気に仕事に行った。まあ、あれだけ何度もしたらスッキリするだろう。
適当に昼食を食べると、昨日の掃除の続きを始める。
そうしているうちにフィストが帰ってきた。
「お帰り……って何買ってきたんだ?」
フィストはなにやらでかい物を買って帰ってきた。
「ベッドだ。昨日言ってただろ?頼まれてた食材も買ってきた」
「なるほど。でも、頼んでいたより多い気がしますが……」
リビングにはよくこんなに車に乗ったなと感心するくらい、買い物袋が並んでいる。明らかに頼んでいた物以外にも沢山ある。
ベッドは組み立て式だが、家でも建てられるんじゃないかと思うくらいしっかりした素材が揃っている。
「必要かもと思って、色々買ってみた。また、何かあったら言ってくれ」
「これだけあればしばらくは大丈夫かな……消化するほうが大変かも」
俺は苦笑しながら言った。
それからフィストは半地下でベッドを作り、俺は買ってきた食材を片付け食事を作った。
「夕食出来ましたよ」
「おお、ありがとう」
「ベッド出来ました?っていうかやっぱり大きいですね……」
ベッドはもうすぐ完成といった感じだった。足も太く男二人で寝ても余裕があるくらい大きい。
因みに手錠の鍵はもっと安全なところに隠してある。
「これで、壊れる心配しないで済むし、何度でもできるぞ」
フィストはベッドに座りながら俺を引き寄せ、嬉しそうに胸に顔を埋める。
「このベッドじゃなくても、何度もしてたでしょ。それより食事先に食べましょう」
「そうだな」
呆れてそう言うと、フィストは素直にリビングに向かい、食事をした。
それからフィストは、毎日何かを買って来るようになった。
留守にする間、暇だろうと新しいテレビやラジオ、運動したいと言ったら運動器具を買ってきた。
あまりにも色々買って来るものだから、もういいと言ったのだが何やら買ってくる。
ほとんど何もなかった半地下の部屋が、あっという間に物で溢れてきた。
「はぁ……今日もなにか買って来るのかな……」
俺は掃除をしながらため息をついた。フィストが勝手に買ってくるものだから捨てるのも勿体なくて物が溜まっていくばかりだ。
そろそろ、本気で怒った方がいいかもしれない。それでも、なにやら嬉しそうな表情で買ってくるのでやめろとも言いずらかった。
「それにしても、そろそろ掃除するところも無くなってきたな……」
はたきを振りながら俺は呟く。フィストの家はそれなりに広いがここ数日掃除をしていたら流石に掃除する場所もなくなってきた。
「次は何するか……まあ、フィストが色々買ってくるから暇潰しには困らないんだけど」
そう言いながらゴミを袋に纏める。後は、これをフィストに出すように頼むだけだ。
「後、気になる事があるんだよな……」
俺は部屋を見回して呟く。これは、掃除を始めたときから感じていたことだ。
気になる事とは部屋の汚れ具合だ。
いくら奥さんが留守で、男一人だから散らかったといっても、家具に積もっていた埃が大分分厚かったのだ。かなりの時間が経たないとここまで埃は積もらない。
フィストは奥さんが妊娠したから実家の方に帰ったと言っていた。
俺は結婚したこともないから分からないが、そんなに長い期間留守にするものだろうか?
普通は臨月が近くなってから帰るものだろうし、そうなると帰ったとしても数週間前って感じだろう。
しかし、汚れを見る限り数週間とは思えない。
「まあ、奥さんも掃除が苦手だったのかもしれないけど……」
それでもまだおかしい事はある。フィストが奥さんと連絡を取っているのを見たことがないのだ。
もうすぐ生まれるなら猶更連絡は頻繁になっているはずだ。
しかし、電話はおろか奥さんの話すら聞かない。
「まあ、浮気相手にそんなに言う話でもないし。俺の知らない時に連絡しているのかもしれないけど……」
それにしてもあまりにも奥さんの痕跡がないのだ。それは掃除をしてさらに明確になってきた。最初は部屋が散らかっていてよく分からなかったが、掃除をして物が片付くと奥さんの荷物と思われるものが少ない。
「奥さんって……本当にいるよな……?」
結婚はしているはずだ。指輪もしているし、写真たてに写真もあった。掃除をしていたら二人で撮ったのであろう写真や結婚式のアルバムも見つけた。
流石にこれをフィストが偽装のために作ったとは思えないから結婚はしているはずだ。
「まさか、死んでるとか……」
ふと、思いついて口に出して少しぞっとする。
「そんな……B級ホラー映画じゃあるまいし……」
思わず奥さんと喧嘩をして勢いで殺してしまい、でもそれを認められなくて俺を奥さんだと思い込んでいるみたいなストーリーを思いついてしまった。
「まあ、フィストの性格を考えるとそうれはないだろう」
フィストは基本的には優しいし、殺人なんていうそこまで非道な事はしないと思う。
「俺を軟禁しているし、言動もちょっと変だから自信ないけどな……」
一末の不安を抱えながらも掃除を終え。俺は今日の夕食の準備に入った。
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