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第12話 気が付いた気持ち
俺達は早速フィストの車に乗り、繁華街のある街に向かった。
「本当にするのか?」
「はい。でも無理そうだったら言って下さい。その時は止めればいいですし。でも、フィストの顔や体格ならいくらでも相手は見つかりますよ。何度か試してみるのもありです」
「そういうものか……」
フィストは少し難しい顔をしながらいった。買春に関して嫌悪感を示していたからおそらくそういう場所にも行ったことも無いだろうし、自分の容姿がどれだけモテるのかも分かっていなさそうだ。
そんな会話をしていると街に着いた。
とりあえず街を歩いて、バーを周りゲイが集まる場所を探す。何人かの店員に聞いてみたらその界隈が集まる店を知ることが出来た。
「じゃあ、俺が探して声かけてみますね」
「あ、ああ」
フィストはまだ戸惑っているようなので、俺が率先して探すことにした。
教えて貰った店に入り、カウンターで酒を頼む。ぐるりと周りを見渡し、丁度よさそうな人物がいないか物色する。
二人でカウンターに立っていると、数人の男がチラチラとフィストを見ていた。モテるだろうと思ったが、やはりその通りだった。
この店に入った時もかなり注目を集めていた。このまま黙っていても声をかけられそうだ。
俺はしばらく物色した後、フィストによさそうな相手に話しかけてみる。
最初は俺が近づいてきたことにすこしがっかりしていたが、フィストの相手を探していると分かるとみんな乗り気になった。
フィストがタチでお試しなので、途中で止める可能性と一晩限りが条件。一応変な病気を持っていないかも確認した。
「フィスト見つけてきたよ」
おれが選んだ男は身だしなみもまともで、清潔そうな奴を選んだ。顔も整っていてフィストより小柄で物腰も柔らかそうだった。
「本当に彼と出来るの?」
連れて来た男は嬉しそうに聞いた。
「フィストが嫌じゃなければね。フィスト、どうだ?大丈夫そうなら彼と試してみないか?」
「……ああ」
フィストは戸惑った表情をしているが、俺と相手の顔を交互に見たあと頷いた。
「じゃあ、適当にホテルでもとって。試してみてくれ」
「ほ、本当にするのか?」
フィストが俺にだけわかるように小声で言った。
「とりあえずベッドまで行ってみて。それで駄目なら帰ってきたらいい。簡単だろ?俺はここで待ってるから」
「分かった……」
フィストは相変わらず難しい顔だが、やっと頷いた。
「どうする?心の準備が出来てないなら止めてもいいぞ」
フィストがあまりに戸惑っていたから小声で聞いた。流石に急ぎ過ぎたかもしれない。
「……いや、大丈夫だ。ここまできたんだ。試してみるよ」
フィストは首をふり答えた。その時、何故か俺は複雑な気持ちがこみ上げた。よく分からない感情だった。
「フィスト……」
「なあ、相手を探してるってあんたか?俺はどう?遊ぼうぜ」
フィストとこそこそ話していると、突然背後から誰かに話しかけられた。どうやらこの店の客のようだ。いきなり肩を抱かれた。
「いや、悪いけどこいつの相手は見つかったんだ。他をあたってくれ」
俺は苦笑いしつつも断る。
「そうだよ。相手は俺なんだから、引っ込んでろよ」
誘った男が、取られてたまるかといった感じで言った。
「いやいや、俺が誘ってんのはお前だよ」
「え?おれ?」
話しかけてきた男は俺の方を見て言った。
「そう」
「あー……悪いけど、俺は相手を探してないんだ。誘ってくれたのは嬉しいけど……」
「ええ?いいじゃないか。あんたみたいなのタイプなんだ。俺と試してみねえ?気持よくしてやるからさ」
男はそう言ってそのまま腰に手を回すと、するりと撫でた。
「っちょ、なにす……」
「おい。止めろ」
しつこい上に変な所を触ろうとするので、流石に止めさせようとしたところでフィストがそう言って間に入った。
「ああ?あんたは関係ねーだろ。なあ、行こうぜ」
なおも男はしつこくそう言って、さらに俺の腰を引き抱き寄せた。
「止めろと言っているだろ!」
フィストはそう言うと、俺の手を掴み引き離す。
「なんだよ!けちけちすんなよ!」
そう言って男は俺の手を掴む。
「ヤンに触るな!」
フィストは顔をしかめそう怒鳴ると、いきなり相手の男を殴った。
「ちょっ、フィスト!」
まさかいきなり殴るとは思ってなくて慌てる。男は倒れてグラスが割れた。
「何しやがる!」
男は立ち上がると、逆上したように怒鳴りフィストに殴りかかる。しかし、流石フィストは軍人だ、軽く避けるともう一度男を殴った。
近くのテーブルが倒れまた、グラスが割れた音がした。
「なにごとだ?」「喧嘩か?」「おい!誰か警察呼べよ!」
周りが音に気が付き騒ぎ出した。
「やばい!」
「ヤン。行くぞ」
フィストはそう言うと俺の手を掴むとそのまま店を出る。
「ちょっ、フィスト……」
「帰る……」
そう言ったフィストの顔は怒っていて、俺は声をかけるのをためらった。
フィストはそのまま外に出ると、車に俺を乗せ走らせた。
そしてそのまま、街を出て家に戻った。
「えーっと、今日は運がなかったですね……」
少し落ちつたところで俺は言った。
「悪かったな、色々考えてくれたのに……」
フィストもやっと落ち着いたのか、今は落ち込んだような表情だ。
「いいですよ。それより怪我とかしていませんか?」
俺はそう言ってフィストの手をとり、確認する。
「ああ、大丈夫だ。ヤンは大丈夫か?あいつに変な事をされなかったか?」
フィストはそう言うと逆に俺の手を取る。そうして、優しく親指で撫でた。
「ちょっと、腰を撫でられただけです。何もされてませんよ」
そう言うと、フィストはムッとした顔をした。
「ヤンは少し、隙が多くないか?」
「そうですか?」
「あんなに、簡単に触らせるなんて、勘違いされてもしょうがない」
フィストは思い出したのかまた怒った顔になる。
「勘違いって……俺は、何にもしてないのに……」
まるで俺が悪いみたいな言い方に俺もムッとする。
「ほら、そうやって睨んでる顔も可愛い」
フィストはそう言うと、指で頬を指で撫でる。じっと俺を見つめる目は真面目そのものだ。
「また、可愛いって……」
あまりにも真剣な顔で言うので、少し恥ずかしくなった。
「本当のことだ」
さっきちょっとムッとしたが、フィストの変な言葉にそんな気持ちは失せてしまった。
俺は仕方がないなと、ため息を付いて言った。
「それにしても、今日は結局何も分からなかったですね」
「そうだな……」
フィストはがっかりしたような、それでいてホッとしたような表情で言った。
「まあ、あの店にはもう行けそうにないけど、また別の店で試してみましょう。っていうか、なんでいきなりあんなに怒ったんですか?あんなのほっておけばいいのに」
フィストがあんなに感情的になった怒った姿は初めて見た。軍時代でも、あんなに怒ることはなかった。
「だって、あいつヤンにベタベタ触って……なんだか腹が立ったんだ……」
「それだけですか?」
「気持ち悪い目で見てたし、そのうち尻とか触りそうだった……」
フィストはまた思い出したのか顔をしかめ、男に触られた場所を埃を払うように叩いた。
俺は少し考えたあと言った。
「もしかして、フィストは俺が好きなんですか?」
俺はふと思い付いて言った。
「え?……なにを?そんなわけないだろ?男同士だぞ?」
フィストはびっくりした顔で言う。
「男同士でもそういう関係になってる奴もいますよ。まさに今日見たでしょ?」
「そ、それはそうだが……なんで、いきなりヤンが好きだなんて話になるんだ?」
「だって、キスしたりセックスしたがるし、俺のこと可愛いとか言ったりするじゃないですか。そういうのは好きな女の子にすることですよ」
「い、いやそんなつもりじゃ……」
「他にも、男に触られただけで怒ったり、嫉妬してるみたいに見えます」
「で、でも俺は普通に彼女がいたし、結婚もしたんだぞ。それなのに男を好きになんてなるわけないだろう」
「そんなこと分からないですよ。俺もいままで付き合ったり、恋人は女性でしたけどフィストのこと好きになりましたよ」
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