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3 編入生

学期の初日には、その期の講義内容や行事予定を確認するオリエンテーションが行われる。 2年生の4月も例に習って、前期最初のこの日、学部で一番広い講義室に全ての文化学部2年生が顔を揃えていた。 文化学部は、6つの学科からそれぞれの専攻が枝分かれする仕組みだ。 法経済学科(法学、経済学) 音楽科(声楽、指揮、器楽) 美術科(デザイン、絵画、彫塑、陶芸) 文学科(日本文学、外国文学) 歴史考古学科(日本史、世界史、考古学) メディア科(映像、写真、プログラム開発) 全6学科17専攻で構成されており、佑と拓馬は法経済学科の学生だ。 法経済学科の人数は現在18人。 入学時は20人居たものの、1人は進路変更による自主退学、1人は交換留学からそのまま他大学へと編入して行ったという噂を聞いている。 今回は学科ごとの席が指定されていたため、2人は後ろの端の方の席をとった。 「…あれ」 「ん、どーした佑」 同じ学科で集まって座っている中、佑は見慣れない人物を2人見つける。 1人は緩いパーマで小柄な男、もう1人は真っ直ぐな黒髪をハーフアップにした背の高い男だ。 2人は知り合いなのか、周りを見ながら何か会話をしていて、恐らく小柄な方がよく喋るのか、茶色い癖毛をぴょんぴょん揺らしながら一生懸命に話し掛け、もう1人が相槌を打っていた。 多くの学生の中に混じって座っている2人は、佑や拓馬と同じ学科の集団の中に居るようだった。 「うちの学科にあんな奴らいたっけ…?」 「あー、今年2人編入生居るらしいよ?2人ともうちの学科だってさ。まぁ1年で2人減ってるし、その分入ってきたんじゃん?」 「へぇ、珍しいな。法経済学科に、しかも同時に2人の編入なんて」 「だよなー」 佑は変わらずその2人の様子を観察しながら、ふと、拓馬の方を見やった。 「ていうかさ、いつも思うけどその情報網なんなの」 「ん?詳しいことはなーいしょ!俺には色んな人の繋がりから得られる情報網があるわけよ!」 「そう…まあいいけど…」 いつものようにニコニコと笑う拓馬に、佑は溜息をついた。 「さってと、もうそろそろ始まるんじゃないかなー」 右手でくるくるとシャーペンを弄びながら、拓馬は周囲を見回している。 「拓馬、お前話題変えただろ」 「あは、バレた?でも本当だって、教授達入ってきたしさ」 それぞれの学科の教授達が続々と講義室に入って来て、壇上に並んだ。 挨拶の後に始まる、今期のオリエンテーション。 そこでの出会いをきっかけに1年目と全く違う学生生活を送ることになろうとは、まだ誰も知る由もない。

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