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2 幼馴染み

翌日。 「ゆーうーくんっ!!」 「うぇ、何拓馬キモっ」 「酷っ!!!!おはよう!」 「ああ、うん…おはよう」 いつものようにハイテンションで後ろから声を掛けてきた、西原拓馬(にしはらたくま)。 保育園から大学までずっと一緒だった腐れ縁とも言える幼馴染みは、ケラケラと笑いながら佑の隣に並んで歩き始めた。 徒歩数分の距離のアパートに部屋を借り、それぞれ一人暮らしをしている彼等は、特に示し合わす訳でも無く通学路で合流し、一緒に同じ講義を受ける。 今日も朝からオリエンテーションの予定で、これまでお互いに隣に居るのが当たり前の存在だった。 「拓馬がくん付けとか…朝から何…」 「別れたらしいじゃん?」 「あー…うん」 さらりと昨日の事を言われ、ドキッとする。 昨日まで春休みだったはずなのにどこから情報が回ったのだろう。 仕入れ先は分からないが、情報通の拓馬には色々なことがすぐに伝わっているのだ。 そもそも、彼女と佑を引き合わせ、彼女の押しに悩んでいた佑にお試し期間を受け入れてはどうかと進言してくれたのも拓馬だった。 拓馬の進言を受け入れてお試し期間を過ごしてはみたものの…結局彼女の気持ちに応えることはできなかった。 「結構佑にぞっこんな子だったと思うけど?無理だった?」 「うん、やっぱり駄目みたいだ」 「そっかー」 拓馬はそれだけ聞いて何も言わない。 顔だけはニコニコとした表情を崩さないまま、隣を歩いている。 佑は居た堪れない気持ちになってきて頭を掻いた。 「何も言わねぇの。その…もう少し頑張ってみれば、とかさ」 「佑が決めた事なんだろ?そのうち変わる日も来るさ、きっと」 「…うん、そうなんだけど」 自分のどうしようも無いことを責めることはしない。 ただ何も言わず分かって受け入れて、見守っていてくれる。 拓馬と居る時のその心地よさが、佑は好きだった。 「俺…恋人は、居なくていいよ」 「いいの?この先ずっと?」 「俺には多分、無理だと思う」 俯いたままそう呟く佑に、拓馬はまた優しく笑った。 「んー…そっか。まぁ、佑が無理って思うなら、無理する必要無いんじゃね?」 「うん」 佑が自分の“過去”を打ち明けた時、初めて拓馬を拒否したあの日でさえ、拓馬は同じように優しく笑って言った。 『駄目なら無理する必要ないんじゃね?俺は別にそれでも離れるつもりないけど?』 その彼の一言と、その後も変わらず横にいてくれたことに、当時の佑はどれだけ救われたことだろう。 今日から新学期、大学生活2年目が幕を開けようとしていた。

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