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10 帰宅 side佑&拓馬

こいつのこんな顔、久しぶりに見たな。 そう思いながら、拓馬は佑の横顔を伺う。 学食で昼食を終えた後、特に次の講義の予定も無かったため、4人は解散してそれぞれ帰ることにした。 徒歩数分圏内の距離に住んでいる佑と拓馬は一緒に歩いて帰宅していたのだが、佑はその間じっと俯いて黙り込んだままだった。 「佑、大丈夫?初対面の人と昼飯まで行ったし、疲れた?」 「まぁ、少しね」 「さっき体調が悪くなったのは?」 「それは大丈夫。ちゃんと落ち着いた」 こういう時、何を話し、どう行動するのが正解なのだろう。 そう考えている間についじっと見つめてしまっていて、佑が首を傾げる。 「どうした?」 「いーや?何でもないよ。落ち着いたんなら良かった」 拓馬は慌てて笑顔を作り誤魔化したが、そう、と特に気にすることも無くまた俯く佑。 佑が初めて拓馬の手を拒絶した瞬間も、拓馬はまだはっきりと覚えている。 元々実家も徒歩数分の距離だった2人は、物心ついた時からずっと一緒に過ごしていた。 家族ぐるみで仲が良くて、小さい頃は風呂でさえ一緒に入っていた時期もあった。 でも、7年前の“あの時”からまるっきり変わってしまった。 その事実を聞いた時にはショックで、苦しくて。 でも佑はもっと辛い思いをしていたのも分かっていた。 『ごめん、拓馬…おれ…お前にも、今、触れない…っ』 真っ青な顔をして泣きながら打ち明けてくれた時の事は、決して頭から離れることは無い。 あの日、拓馬は親友として何があっても佑から離れないと決めた。 …まさか、高校と大学まで同じだとは思わなかったけれど。 他人の手を拒絶する瞬間、いつだって苦しそうな表情をするのを知っている。 その後何かを考えるように、暫くじっと黙り込んでしまうことも。 だからこの7年間ずっと、自分からすすんで他人と関わろうとしてこなかったのを見てきた。 でも、そんな佑を一番近くで見てきたからこそ、自分に出来るのはこれからもただ近くで見守ってやることだけしか無いのだろうかと悩んでしまう。 「なぁ、佑」 「うん?」 「多分これからカズや歩と一緒に4人で居ることも増えるだろうけど、焦って無理する必要は無いんじゃねーの」 「…うん、そうだね」 少しだけ寂しそうに笑う佑の横顔を見て、自分ではどうしようもない、切ない気持ちでいっぱいになる。 佑のために何か一つでも自分が変わらずにいられるとするなら、これからも、何があったとしても、友人として佑の隣に居るということだろうか。

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