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21 嫉妬

「拓馬、ありがとうな」 「ん、何が?」 真っ暗な部屋の中ふと漏れた本音に、拓馬が不思議そうな声で返事をする。 しかし、和樹にとっては面と向かっては少し気恥ずかしくても、拓馬には伝えておきたいことだった。 「歩のこと。あんなにすんなり受け容れて貰えると思ってなかった。こいつは結構、これまでは色々な偏見に悩んできた奴だったからさ」 「俺達だって将来どうなるか分からないだろ?もしかしたら好きになった相手が同性だって可能性もあるかもしれない。それは本心からの言葉だよ。それに何があったって歩だって事には変わりないから、誰が好きだろうが関係無いよ。それはきっと佑も同じ考えだと思う」 きっとあの屈託の無い笑顔で笑っているのであろう拓馬の返答に、本当に彼等に出逢えて良かったと和樹は実感する。 「渡すの忘れてた。はい、これカズの分のブランケットね。安心しなよ。俺達は歩の恋愛をちゃんと応援してるからさ」 「ああ、ありがとう」 拓馬は和樹にブランケットを渡した後でそのまま床に寝転がったが…眠れない。 そのままぼーっと天井を見つめていると、色々な思考が頭に浮かんでは消える。 心に引っ掛かっているのは、歩じゃなく佑のことだった。 その日が来たらきっと嬉しいはずだと思っていた。 もし、和樹や歩との出会いがきっかけで佑が変われるのだとしたら、それは望んでいた事のはずだったのだ。 でも、どうしてこんなにも複雑な気持ちになるのだろう。 「嫉妬」という単語が直ぐに浮かび、心の中で苦笑する。 和樹の服の裾を握って眠る佑を見て、少なくとも拓馬は和樹に嫉妬した。 自分が長い間掛けて癒してやれなかった佑の心を、こんなにも簡単に動かしてしまうのだろうか、と思った。 寝ていて無意識とはいえ、数年ぶりに自分から他人に近づく事が出来たのだから、佑にとっては紛れもなく大きな進歩だった。 いや、逆か。 自分は時間を掛け過ぎたのかもしれない、と、拓馬はこれまでの自分の行動を思い返す。 手を出さず様子を窺い過ぎた所為で、手を出す機会を失ってしまったのだ。 でもそれでもいい、と別の自分が肯定する。 きっかけが自分であれ和樹であれ、佑が変われるのだとしたらそれで良いじゃないか。 苦しそうな佑を見なくて済むそ、何より幼い頃のように接する事が出来る。 それが本当に実現するのだとすれば、それより嬉しい事はなかった。 友人に嫉妬なんて、凄く情けない事をしたけれど…その日が来るまでは、自分に出来る事をしよう。 そう自分に言い聞かせて、拓馬は目を閉じた。

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