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31 自覚

歩の話を聞いて走って駆けつけた拓馬は、真っ青な顔で眠る佑の顔を見つめながら、こんな事初めてだ、とぽつりと呟いた。 「初めて、だったの?」 「あぁ。嫌がるの知ってたから、俺は佑に触った事無いんだよ。佑自身も誰にも不意打ちされない様に気を遣ってたみたいだから、触られてどうなるかなんて見たことない。抱きしめられたなら尚更ショックが大きかっただろうから…大丈夫かな」 「拓馬、どうしよう俺…こんなことになるなんて思わなくて、大変なことしちゃった…」 「誰にもどうなるかなんて分からないことだったんだ。まずは佑が起きるのを待って話をしてみるしかないよ。歩もびっくりしただろうからちょっと落ち着こうか、一旦外に出よう」 初めて目にする佑の反応に、拓馬もまだ状況を完全に受け止めることができていない様子だった。 しかし、彼は狼狽える歩を連れ、落ち着かせるためベランダに移動しようとする。 和樹が呼び止めようと口を開くと、ニコリと笑って制された。 「カズは佑についててやって?歩は任せてくれていいからさ、佑を頼むよ」 「…分かった」 拓馬だって絶対に佑のことが心配な筈なのに、信頼して任せてくれている。 眠る佑の横に座り、震える手をそっと佑の頬に伸ばすと、温かい体温が掌から伝わった。 「…ごめんな」 その温かさに、思わず涙が溢れてきた。 何をしてでも歩を止めれば良かったという後悔と、佑の事を知りたかったという願望が頭の中を渦巻いている。 一体何に苦しんでいるのか?自分達じゃ救えないのだろうか? 佑の頬から手を離し、見守ることしかできない自分が情けなくて、それでも何故か頬を流れる涙は止まらない。 「俺だって…俺だって知りたいんだよ、お前が何を抱えているのか。それに、」 できることなら、佑の抱える不安を自分が拭い去ってやりたかった。 そうしてやることができない悔しさが拭えなかった。 拓馬の家に泊まった時のように、佑が眠っている間にこうでもしなければ、ただ触れる事さえ出来ないことが情けなくて仕方がない。 自分だって、佑のことを抱き締めて心の奥底に抱えている何かを無くしてやりたいのに、佑を傷つけてしまうことや、また初日のように拒絶されてしまうことが怖くて、何も行動できそうになかった。 さっき佑が気を失った時、抱き締めていた相手が自分ではなくて歩で良かったとさえ思ってしまうのだ。 真っ青な顔で眠る佑が、早く目を覚まして欲しい。 この先触れられなくてもいいから、せめていつかのように穏やかに笑っていて欲しいと思った。 そしてやっと、和樹はずっと心の内にあった自分の感情の意味に気付く。 佑が、好きだ。

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