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第1話

「休憩に入りまーす!」 スタッフの声がスタジオ内に響き渡る。 朝早くから続いている撮影も数時間が経っている。休憩もこれで三度目だ。 撮影と言っても、男性向けのファッション誌のグラビアである。  二十五歳の人気モデルである真那人は、休憩の合図と共に空いているパイプ椅子に腰掛けた。  真那人は昨夜二時過ぎまで飲んでいて、二日酔いと寝不足を抱えてここにいる。それでも、撮影している間はそんなことを微塵も感じさせずにきちんとやり遂げるプロだ。  こんな状態で仕事に来るのもどうかと思うが、彼はこれが日常となっている。むしろ、私生活の荒み方は学生時代からのもの。  スタッフなど周囲の人間が黙認しているのは、彼が国内でも有数の人気モデルであり、経済効果も抜群だからだろう。 その代わり、真那人の私生活や素性は業界内やファンの間でシークレットになっており、彼の所属事務所の社長含めた数人しか素性は知らず、彼らも口外していない。 そんな神秘性も、真那人の人気の秘密だろうか。  次のカットを撮るためにまた着替えなければいけないのだが、控室に戻るのも面倒だ。 椅子に腰掛けた真那人が目を瞑ると、名前を呼ぶ声がした。 「真那人さん!」  目を開けなくとも誰かは分かる。 モデル仲間で後輩の神宮寺拓実だ。 拓実とはよくつるんでいて、昨夜も遅くまで遊んでいた。 「あぁ」  目を瞑ったまま返事をする。 「昨日はお疲れ様でした!さすがっすよねー、きちんと仕事やり遂げるんですから!俺なんて寝ちゃいそうでしたよ」 「まだ残ってるぞ。それに慣れっこだからな。……遊んでてもやるこたやんねーと示しつかねーじゃん」 真那人はだるそうに答えた。真面目なのかそうでないのか良く分からない。 「そうですよね。あ、そうだ。そろそろ着替えた方がいいんじゃないっすか?」 「あー、うん。今いくー」 「そういや、今晩看護師と合コンあるんすけど、真那人さんもどうっすか?」  その言葉に、真那人はようやく目を開けた。 「今日は実咲と約束してっからさ。悪い」  実咲は真那人の先輩モデルの女だ。 数いる周囲の女の誰よりも、真那人が仲良くしていて、飲みに行ったりしている間柄であり、拓実も知っている。 「あ、そうなんすね。実咲さんによろしく!」 「あぁ。分かったよ」  そう言いながら、真那人はまだ重さの抜けない腰を上げた。

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