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第63話

 出演者は解散となり、皆が帰り始めた頃に今度は周防が楽屋を訪ねてきた。他に残っていた者に挨拶をしてから真那人のもとへとやってきた。 「お疲れ様だったな」 「周防さんこそ」 「ちょっと…」  再度、促されて階段下へと連れて行かれる。 「なんだよ…」 「良かったよ。渋さがプラスされていたし、シックで格好良かった」 「本当?サンキュ。周防さんの方は終わったの?」 「あぁ、やっとな。それにしてもやっぱ疲れた…」  周防は抱きついてきた。 かと思ったら、今度は身を離して真那人の頬を両手で挟み唇を重ねてきた。 「お、おい!もし見られたらどうすんだよ」 「誰も見ないよ」  そんな保証などあるのだろうか。 「頑張った、お互いへのご褒美」 「何言ってんだよ」  真那人の頬がカっと熱くなる。 「そういえば、お父さんが来てたぞ」  驚いた。真那人は父親に来て欲しい気持ちは内心あったものの、直に誘ったり頼んだりしたわけではなかった。 「え、そうなの?」 「あぁ。ロビーにいた時に、見かけたんだ。声かけようと思ったんだけど、間に合わなかった」 「そか。親父、来てくれたんだな。来ないかと思ってたけど」 「お前の晴れ舞台だからな。やっぱり父親だってことだよ」 「そう、かもな」  親子としての交流もなく育ち、大人になってからたまに仕事で顔を合わせることもあったが、父親らしい面があったことに、真那人は驚きとともに嬉しさを感じた。

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