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第5話光と影【七瀬と紅緒】

先月草を刈ったばかりだというのに、祠の周りは雑草で覆われていた。山の中までは草刈機を運べないため、鎌で草を刈る。 汗を掻きながら、せっせと労働に専念する。 小さな祠は小一時間で綺麗になった。 お狐様を拭いて赤の前掛けを交換する。町の豆腐屋で購入した油揚げをお供えした。 「いっつも思うけど、狐は別に油揚げが好きじゃないよな」 「人間にも事情があるんじゃない。狐に頼りたい気持ちは分からなくもないし。御利益は結構あるみたいだよ」 「へー、くだらねぇ。人間のくせに。自力でやれっつうの」 人間が好きな狐はあまり存在しない。それこそ変異種で物好きな狛崎ぐらいだ。 掃除が終わり、汗を流すために風呂へ入った。朝の掃除が昼過ぎになったのは、紅緒の寝坊が原因である。それを焦るでもなく、流れる時間の限り、ゆったりと自分たちができることをやっていく。 昼間の浴室はなんだかいけないことをしているような特別感があった。ここの町はいつだって世界から取り残されたような不思議な気持ちになる。 「そう言えば。さっき、服が届いたよ。ずっと待ってたやつ」 「おおー、やっとか。田舎はおっせえ」 紅緒はお洒落が好きだ。パンキッシュな服を好み、女性ものを難なく着こなす。周りの人間からは、痛い田舎のバンドマンだと思われているに違いない。 本人は全く気にしてないのでヨシとする。 「後で着て見せてね」 「もち」 「…………紅緒」 「ん、なに?」 髪を洗う紅緒がこちらを見た。 「愛してるよ」 「うん、俺もっ」 すかさず笑顔で紅緒は答える。 「七瀬が俺の全て。七瀬が死んだら俺は死ぬっていつも言ってんじゃん」 「知ってる。でも言いたくなる。思いが膨れてどうしようもなくなっちゃうんだ」 「七瀬は不安がりだな」 「いつも不安だよ。紅緒がどっか行っちゃうかもって」 ひとしきり洗った後、紅緒は浴槽へ戻ってきた。湯気がほわほわと辺りを包んでいる。 「紅緒。ずっと俺の傍にいてね」 「ああ。死ぬまで一緒だ。離れない」 「1人で祠の掃除はしんどい」 「ふふふ。それはしんどい。俺だってやりたくねえよ」 「…………だね」 おでこをコツンと擦り合わせる。 「眼鏡取っても七瀬はいい男だな」 「紅緒の恋人だよ。当然じゃん」 「七瀬、いつもありがと」 「こちらこそ。この世に生まれてきてくれてありがとう」 狐は寿命が長い。長いぶん色んなことがある。これからも、今までも。 ありったけの愛を君へあげたい。 俺は心を込めて、紅緒へ口付けをした。 【END】

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