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第9話君に拾われた日から
赤毛を手元に置くにあたり、決めておかなければならないことがある。
まずは、住居の件。所在が周りに知れ渡ると非常にまずい。元々廃商店街を改造したコミュニティは、建物自体も狭くて窓が少なく、侵入者を受け入れるには不向きで、匿うには適していた。しかし、数少ない出入り口を大人数で押さえてしまえば、たちまち占拠されてしまう。赤毛もろともうちのコミュニティが陥落してしまう可能性があった。
「だからって、七瀬さんが別の場所に住むなんて!!」
拓がヒステリックに叫ぶ。
耳がキーンとした。
「拓はハクと一緒にここを護ってくれればいい。これからは行き来する予定だし」
「俺、俺は、、七瀬さんに感謝してます。俺を拾って育ててくれた。これからも七瀬さんの傍にいて、七瀬さんの役に立ちたいんです」
結局ハクは北へ帰らずここに留まっている。
北のリーダはどうしようもないクズで、裏の顔を知ってしまった今、ついて行くのに無理がある。俺だったら失望する。特に使命感が強いハクのような人物には苦しい選択だっただろう。
俺がコミュニティを一時的に離れることを決めたのは、ハクの存在もある。メンタル面で拓を支える存在が欲しかったからだ。
が、ハクを全面的に信用した訳では無い。暫くは通いでコミュニティを管理しなければなるまい。
俺と赤毛は今までのコミュニティに加え、いくつかの住まいを構えることにした。防犯上、転々とする予定だ。
周りからはそこまでして赤毛を迎えるのかと散々言われたが、俺の気は変わらなかった。
俺を慕ってくれる赤毛を放っておけないのだ。赤毛は基本的に俺の傍から離れようとしない。クールなフリをして、いつも俺の姿を探しているところが可愛らしいと思う。
利用価値のあるペットみたいな、そんな感じだ。
「七瀬さん、いつになったら拠点に戻ってくれるんですか」
「こうやって来てるじゃん」
渡された書類に目を通す。在宅での処理を拓は許してくれなかった。
「違います。こちらに住まいを構えて欲しいんです。何かあったらすぐ相談したい」
「俺が欠けても問題なく廻るようにしてきたつもりだ。仲間だって沢山いるだろう。ハクとは仲良くやれてるか?」
2人がどうなったのか、実のところ聞いていない。
ただ、ハクは北へ帰らずにいる。余所者には変わりなく周りからも牽制されているようで、今のところは大人しい。
赤毛もハクについては特に何も言及しない。
「仲良く……ん、まあまあ、普通です」
「そうか。喧嘩すんなよ。もしかしてハクには別に好きな人がいるとか」
「あ、まぁ、、、問題ないですから。七瀬さんは気にしないでください」
憶測で適当に言ったことが図星だったようだ。あいつらはあいつらで色々あるらしい。とたんに拓への申し訳ない気持ちでいっぱいになる。人の恋路へ口出しは禁物だっま。
(あれ。これって………)
光熱費の明細がちょっとおかしい。というか、使いすぎの枠を超えて増えている。部屋数と合わない。
嫌な予感がした。
「電気代が高くないか。こんなに増えることはないだろう」
「え、ここ1ヶ月は逆に減ったと思います。使っていない部屋を整理したので。七瀬さん居ないから……」
「………………妙だな…………」
不穏な空気を感じることが出来なかった。怪しいと思った時点で、あっという間に部屋を黒い影に占拠されてしまっていた。
見知らぬ顔に回り込まれてしまう。
「動くな」
ふわふわと浮いているような甘い感覚は初めてで、同棲でも始めるかのごとく、赤毛との日々が楽しみだった。
たぶん、それが平和ボケというやつだ。
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