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6.俺だけがいない 3
騒がしい教室だから聞こえなかったのだろうか。
新藤は全くといって動かない。
「おい、新藤」
もう一度呼びかけるけど結果は同じだ。
なので、今度は新藤の目の前に立って呼びかける。
「新藤、昨日はこれありがとう」
そう言って俺は新藤に紙袋を差し出した。
……でも。
新藤はやっぱり反応しない。
まるで、俺という存在そのものがいないみたいに。
「なぁ……」
どうして? そう思った瞬間、教室のドアから新藤を呼ぶ声が聞こえた。
「新藤、ちょっといいか?」
そいつが誰かは知らない。
でも、新藤は目の前にいる俺のことは無視したのに、そいつには返事したんだ。
しかも笑顔で。
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