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19.俺の声を聞け 9

その男は手を振り上げて俺に殴りかかってきた。 とっさに防御しようとしたが、一人をかわせたとしても他の男の手も伸びてきて、それが腹に入ってよろけてしまう。 よろけてバランスを崩すと、足も蹴られてうずくまってしまい、そこからは体中を蹴られてすぐに動けなくなった。 「コイツ、弱ぇー。俺、やっぱ女が良かったなぁ」 そんなことを言い、男たちは笑いながらうずくまった俺を引きずり奥の部屋へと連れて行って床に放り投げる。 痛みに耐えながら閉じかけた瞼を開けて見ると、そこには腕を縛られてぐったり横たわってる修平がいた。 「修平!」 すると女の声が横槍を入れる。 「あれ? 千秋ちゃんは?」 声の方には俺を見下ろすようにして椅子に座るカナがいた。 すると周辺にいる男達も騒ぎ始める。 「可愛い女の子が来るんじゃなかったのかよ。俺、やる気満々だったのによ」 他のやつらも同様に騒いでいた。 なんだよ、みんな揃いも揃ってバカばっかりだ。 「ねぇ、千秋ちゃんはどうしたの? まさか修平を見捨てちゃったのぉ?」 怖い~なんて気持ち悪い声を出しながらカナが笑いながら言う。 何も言わず、ただその光景を見ながら俺は唇を噛み締めていた。 煩い。煩い。煩い。 苛々する。やっぱりお前だったのかと。 どんな気持ちで俺が今日まで過ごしてきたか……。 それが全部お前のエゴの為だけだったのかと思うと吐き気すらする。 俺は修平を取り戻しに来たんだ。 逃げたりしない。隠れもしない。 例え、ボコボコに殴られたとしても修平を取り戻すまで諦めたりしない。 だから決心の現れを示すためにも、俺はカナを真っ直ぐに見つめた。 そして、視線をはずさずに言ったんだ。 「俺が…───千秋」 そう言った瞬間、辺りがシーンと静まり返った。

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