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19.俺の声を聞け 13
逃げ腰の男たちをみてカナは声を上げ続けている。
「何やってんのよ!」
「こいつマジでヤバイって」
それだけ修平は常軌を逸していた。
そんな男共に腹を立てたカナは声を張り上げて叫ぶように言う。
「金さえ貰えたら何でもするんでしょ!? 早くヤレったらヤレよ!」
でもそれが結果的にこの一連の騒動の幕を閉じるきっかけとなった。
金切り声を上げてキレた瞬間、その声は男たちのリーダーっぽいやつの気に障ったらしく、カナの顎を持ち上げて鋭く低い声を響かせながら静かに言った。
「なんだよその態度。お前、誰に命令したんだよ。調子のってっとお前から犯すぞ」
修平の思わぬ反撃で、不利になっていた苛立ちもあったのかもしれない。
カナの顎を離すとリーダーらしき男が殴りあきたと言いながら店を出て行く。
それを追うように残りの男たちも店から出て行った。
さっきまで俺のことを殴っていた奴らがカナに毒吐き、男たちの方から去って行くのは変な感じだったけど、余りにも突然の幕切れに戸惑いつつ、そのやり取りをぼんやり見ていた。
終わった……のか?
「なんなのよぉ!」
カナは泣き叫びながらその場にぺたんと座り込んでしまう。
すると、修平は男たちが出て行った途端に力が抜けた様によろけてしまった。
「修平! 大丈夫か?」
修平に駆け寄って、縛られているロープをほどき起きあがらせようと修平の手をつかもうとすると、修平は俺の手をはじいた。そして、修平の手は俺の頬に触れ、殴られたところを撫でる。
「どうして来たんだ。……こんなに殴られて……」
「お前よりマシだ。さ、手を貸せ」
「どうして来たんだよ。どうして僕に電話なんかしたんだ? 僕がアドレス帳から削除した後になぜ千秋も消さなかったんだ……」
「そ、それは……」
そんなこと、どうでもいいだろ! って言おうとして修平の顔を見たとき、驚いてそのまま言葉を呑み込んでしまった。
何故って……、修平の目が真っ赤になっていたから。
「……結局千秋まで殴られたら、別れた意味が無いじゃないか」
力無く呟くと、今度は俺のことを引き寄せて強く抱きしめる。
「千秋……ごめん」
あんな修平の顔は初めて見た。そして微かに震えながら発された言葉が俺の中に響いていた。
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