46 / 76

生存権3

 インターホンを鳴らす。  「はい?」  小柄な青年が訝しげにドアを開けた。  写真とは違いメガネはない。  なるほど、可愛い。  ガキが浮かれるわけだ。  僕はなんなく、青年の身体の自由を奪って背後から抱き締める。  叫ぼうとした口を抑えて、抱き締めたまま部屋の中に上がりこむ。  「ダメだよ 、ヤバいヤツと暮らしているくせに、簡単にドア開けたら」  耳元で囁く。  身体が固まり、怯えているのがわかる。   イタズラしたくなるな、これ。 Tシャツの下に手を這わせてみる。  乳首を見つける。  指で弄る。  ああ、これは相当弄られてるな。  あの狂犬が毎晩吸い付いているわけか。  摘まんでやれば、身体を震わせた。  怯えた目にうずうずする。  切り刻みたい。  ぞくぞくした。  これ、いい。  これは遊べる。    殺したい。  「いいなぁお前・・・指から斬りたい」  そう僕が笑って青年の首筋をなめた時、背後から殴られた。  ガキがガチで怒っていた。  「アンタねぇ、その趣味を何故今出すわけ!」  怒鳴られた。  「冗談だよ」  僕は手を離す。  ガキが青年を自分の背後に隠す。  「絶対本気だった」  ガキがムキになるのが面白くないなんて言ってやらない。  「あ・・・」   青年がガキにホッとした顔を向けるのも面白くない。  「殺さないって約束しただろ」  ガキが怒る。  まだ嫉妬で怒っているなら面白いのに。  嫉妬しているのが僕だってことも面白くない。   「アンタを誘拐する」  ガキが青年に言った。  「アンタは自分では逃げれない。だから、ちょっと薬で意識を失ってもらう。大丈夫、この人近づけないから」  人を危険人物みたいに言うなよ。  「意識を?」  青年の質問に答えるかわりに、ガキは薬品のしみたハンカチを青年の口元に押し当てた。  青年は意識を失った。  「お前誘拐慣れてきたな」  僕は笑った。  三人目になれば、手際も良くなる。  「俺達が正義の味方?、絶対悪者だと思うぞ、俺は」  ガキが青年を抱えながら呻いた。  僕は笑った。  「でも、そうなんだから仕方ない。さあ、人間に害をなす、モンスターを退治を始めるよ」  ちょっと面白くなってきた。  車の中から組の事務所から出てくる狂犬を確認する。  後部座席に青年は寝かされ、青年を守るようにガキが膝枕している。  クソ、面白くない。  「体調悪そうだな、なんで?不死身なんだろ?」  ガキが不思議そうに言う。  狂犬のデカい身体がふらついている。   「よし、ハマった」  僕は笑う。  「組長がちゃんとしてくれたようだ」  あの組長は狂犬をやっかい払いしたかった。  怖くなってきていたのだろう。  「食事に混ぜてくれたんだよ」  話を持ちかけたのはもちろん僕だ。  組長は乗った。  「不死身なのに毒なんか意味ないだろ、それに食事の必要ないだろ、俺達」  ガキには細かい説明はしてなかったな、組を利用して男の身体の自由を奪うとは言ったけれど。  「僕達は食事の必要はないが、食べれないわけじゃない。それに人間のフリしてるなら食べる必要性がある。特に、組長との食事なんか断れないだろ、あの狂犬の場合」  僕は説明する。  「僕達にも効く毒が一つだけあってね」  それは 【捕食者】の肉だ。  僕達は死なない。  肉の一片になっても生きている。  灰になっても再生する。  ただし、僕や男の力のようにこの世界から消し去られたならば再生は出来ない。  でも、身体のほとんどを消し去られても、この世界にわずかに残った部分があったなら?  恐ろしいことにその肉片はまだ生きているのだ。  再生出来なくても。  「それを体内に入れれば、拒絶反応が起こる。僕達にとって僕達【捕食者】こそが相手を殺すモノだからだ」  吐き出すこともできず、ただ、体内に自分を拒絶するモノが入りこむことは、凄まじい苦しさを与えるらしい。殺すことは出来ないが。  もちろん僕は体感したことはない。  政府は殺す方法こそ発見きてないが、こういった方法は実験で見つけ出している。  「質問。どうやって実験しているのかな」  ガキの質問に答えてやる。  「【捕食者】全員がスゴイ能力を持っているわけではない。稀にたいした力のないヤツもいる。 人間では殺せないけれど。捕まえることは出来る。そういうヤツを閉じ込めて実験材料にしているんだよ」  死なないだけに 、生きたまま、切り刻まれ、ありとあらゆる実験を行われている。  実物は見たことがないけれど。  「・・・」  ガキは言葉をなくしていた。  「人類のためなんだろ」  僕は鼻で笑った。    

ともだちにシェアしよう!