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生存権2
彼はそこでスケッチブックを広げていた。
俺が隣りに座っても、彼は何の表情も変えなかった。
「助けたい」
俺は言った。
「そう」
彼は困ったように微笑んだ。
「俺も君と同じだ 。あの男は【捕食者】と呼ばれているモノだ。【捕食者】とセックスして生き残れば【従属者】と呼ばれるものになる。俺も【従属者】だ。ただし、俺の【捕食者】はこの国に雇われていて、他の【捕食者】を狩っているんだ」
俺は説明した。
彼が計画にのってくれたら、男は彼を撃たないと約束してくれた。
スーツ達も彼の首を切り離したりしないと。
協力して欲しい。
「俺は無理だけど、君は帰れる。日常に」
俺は彼に言った。
「あの人はどうなるのかな」
色鉛筆を握る指が、震えていて、彼は鳥を描くことをやめた。
雀か。
絵のことはわからないけど、上手いと思う。
「俺の【捕食者】に殺される」
俺は簡潔に言った。
彼は頭を抱えた。
震えていた。
「君が協力しようとしまいと、殺される。だから、協力して欲しい。君だけは日常に帰ろう」
ボクは本当に彼を助けたかった。
心が引き裂かれているのだろう。
見上げた彼の目に苦悩が見えた。
身体を重ね、絆ができた間柄だ。
情が生まれてしまっている。
あの狂犬は優しいのだろう。
彼には。
激しく求められ、抱かれたのだろう、そして時に
優しく。
夜毎、甘く囁かれたのだろう。
果てしない孤独に生きていた者がどれほどの優しさを与えるのかを、彼も知ったのだろう。
俺がそうだったように。
で 、なければ彼はここまで苦しまない。
裏切りはツライ。
それはわかる。
「あの男は生きている限り、誰かを殺し続ける。どちらにせよ、君は罪の意識を持ち続ける」
俺は彼が選ぶしかないと分かっていた。
俺達は、人間なのだ。
人間だと思っているからだ。
「あの男はいちゃいけないんだよ。それは君のせいじゃない」
俺は彼の肩を抱いた。
彼が泣いていたから。
「ボクは・・・ボクは・・・」
彼は悲痛な声を上げた。
この世界の誰よりも、俺は彼の気持ちがわかった。
彼は選んだ。
選ぶしかなかった。
俺もいつかこんな日が来るのだろうか。
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