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とある谷の奥深く、沢のほとりに佇む男がいた。
真っ赤に燃えるような赤い着物を着て、黄金色の羽織を着た派手な出で立ち。胸元まである黒く長い髪を一つに結い、左肩に垂らしている。背が高くがたいも良い、精悍な顔つきの男だ。
彼を前にすれば、どんな人も妖も思わず怯んでしまうだろう。ただ立っているだけなのに、圧倒的な威圧感がある。
だが、水面に映る彼の表情は、どこか思い悩むように歪んでいた。
「クオン様!」
その声に男が振り返ると、空に一羽の鳥が飛んでいた。
黒いエナメルのような嘴に鋭い爪、切れ長の瞳、七色の長い尾を持つ、鷹のような体格ながら、その派手な出で立ちは孔雀のような鳥だ。
クオンと呼ばれた赤い着物の男は、やや焦った表情を浮かべて鳥に駆け寄る。その鳥は、地上に降りてくる途中で赤い炎に巻かれ、地面に降り立った時には、人間の男の姿となっていた。
黒い着物に赤い帯、頭には赤い布が巻かれ、目元を隠している。男はクオンを前にすると、片膝をついて頭を下げ、「申し上げます」と声を上げた。
「サノア殿ですが、一族総動員で捜索しましたが見つけられず、もうこの里には居ないのではないかと…」
男は迷いながらも顔を上げた。
「クオン様、彼女を探してもう三週間です。長は、これだけ探しても見つからないのなら、新たな伴侶を迎え入れろと、」
その時、クオンの着物の裾が勢いよく燃え上がり、男は焦って立ち上がった。
「お待ち下さい、クオン様!」
男の声も聞かず、クオンは人から鳥へと姿を変えた。
黒いエナメルのような嘴に鋭い爪、真っ直ぐと鋭い瞳、黒い着物の男の鳥姿より体格は一回り大きく、その尾は、真っ赤に燃えるような赤く長い尾だった。その尾の中には、黒い着物の男には無かった、金糸で紡がれたような輝くような羽がある。
「クオン様、いけません!」
男の制止虚しく、クオンはそのまま空の彼方へと飛び立ってしまった。
「あぁ、行ってしまわれた!大変だ…!」
男は直ぐ様同じように鳥へと姿を変え、谷の奥へと飛び立っていく。クオンの姿は、もう見えなくなっていた。
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