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パパはライバル! 第355話

「あ~の、り~くんいったりましゅ!」  チャイルドシートからおりた莉玖がシートの間からニョキっと顔を出して助手席のオレの頬にブチュッ!とキスをしてきた。 「は~い、いってらっしゃ~い!杏里(あんり)さん、よろしくお願いします!」  オレも軽く莉玖(りく)の頬にキスをして、先に降りていた杏里に声をかける。 「あれ!?莉玖、パパには?」  よいしょっ!と車を降りようとしている莉玖の背中に向かって由羅(ゆら)が慌てて自分の頬を指差したが、振り返った莉玖は「あっかんべ~!」をするように一瞬顔をくしゅっと歪めて変顔をしただけでさっさと降りてしまった。 「じゃあ、行きましょうか莉玖!」 「あ~い!」 「え、ちょ……パパにも……チュッって……」 「由羅、ごちゃごちゃ言ってないで早く手振らないと行っちゃうぞ?」 「あ、はぃ……いってらっしゃい……」  ニコニコしながら手を振って図書館に入っていく杏里と莉玖を、オレと由羅は車の中から見送った。    さてと……これからどうしようかなぁ~……   ***  早朝の訪問者は予想通り由羅の姉の杏里だった。 「姉さんおはようございます。こんな朝早くにどうしたんですか?」  出迎えた由羅が、少しだけ不満そうな声を出す。 「言うほど早くないでしょ。そういう響一(きょういち)は何やってるのよ。仕事は?」 「今日は休みです」 「あらそうなの?……ん?でも私聞いてないわよ?」 「連絡していませんからね」 「なんで連絡してこないのよ!あなたが休みってことは綾乃(あやの)ちゃんも休みってことでしょ?莉玖のお昼ご飯はどうするつもり……あ!もしかして、みんなでお出かけ?」 「はい」 「どこに行くの!?私も一緒に行っていい?」 「ダメです」 「どうして?響一ばっかりズルいわ!私だって久しぶりに綾乃ちゃんと莉玖と遊びたいのに!」  リビングの扉が開いて、早口でまくし立てる杏里と、困り顔の由羅が入って来た。   「姉さんはいつでも遊びに来られるじゃないですか。私が仕事の時に来てください!」 「あら、そんなことないわよ!私だって毎日来てるわけじゃないもの。特に最近は……あ、莉玖~、綾乃ちゃん、おはよう!久しぶりね!」  杏里の声がワントーン上がり、にっこりと笑いながら近付いてきて莉玖を抱き上げる。 「!ちたね~!」 「は~い!あ~りんが来たわよ~!おはよう莉玖!」 「おたよ~!」  オレが「杏里さん」と呼ぶせいか、莉玖も「あんりおばさん」ではなく「あんりさん」と呼ぶようになってしまった。しかも、まだうまく言えないせいで「あ~たん」や「あ~りん」とどこかのアイドルのニックネームみたいになってしまう。  でもまぁ、意外にも杏里さんはその呼び方が気に入っているらしいので結果オーライかな? 「杏里さん、おはようございます。えっと……今日はどうしたんですか?」  杏里に挨拶をしつつカレンダーをチラ見する。  カレンダーには由羅が休みということ以外は書かれてないけど、もし杏里さんとの予定を書き忘れていたとすれば……うん、(いさぎよ)く土下座だな! 「どうもしないわよ?ほら、最近は私もなにかと忙しくてなかなか来られなかったでしょう?で、やっと時間が出来たからふたりに会いたいな~って思って……」 「そういえば直接会うのは久しぶりですよね」  なんだかんだでオレも由羅もしょっちゅう杏里と連絡を取っているのであまり久しぶりな気はしないが……  ひとまず約束を忘れていたわけではないようなので、ほっと胸を撫で下ろした。 「来るのはいいですが、せめて事前に連絡くらい……」 「ちょっと響一、うるさいわよ!そういえば、出掛けるんでしょ?どこに行くの?」  ブツブツと文句を言っていた由羅をバッサリ遮って、杏里がオレの顔を見る。 「雨なのでみんなで図書館に行こうかと……」  今朝の由羅とのやり取りを話すと、杏里は「ふんふん……」と頷き「よし!わかったわ!それじゃあ行きましょうか!」と立ち上がった。  うん、杏里さん一緒に行く気満々ですね。まぁオレは別にいいけど。 「って、杏里さん待って!まだ準備が……」 「あぁ、私も手伝うわよ。え~と、お出掛けセットはこれね。お着替えは~……」  4人の子どもを持つ大先輩ママの杏里は、出掛ける準備も手慣れている。  しょっちゅう一緒にお出掛けしているので、この家のどこに何があるかも把握済みだ。  お出掛けセットは杏里さんに任せておけば大丈夫だな! 「よし莉玖、お出掛けするから先におトイレ行こうか!」  オレも急いで出かける準備に取りかかった―― *** 「本当に姉さんも行くんですか?」 「なあに?図書館はみんなのためのものなんだから、私も行ってもいいでしょう?」 「それはそうですが……」 「心配しなくても、後で私に感謝するわよ」 「え?それはどういう……」  渋る由羅を横目に杏里は意気揚々と車に乗り込み、ちゃっかりと莉玖の隣を陣取った。  杏里さんが楽しそうで何よりです。はい。  ところが、図書館に着くなり杏里が「久しぶりに莉玖とふたりっきりで過ごしたいからあなたたちは来なくていいわよ。せっかくの休日なんだから綾乃ちゃんも莉玖から離れてゆっくりしなさい。あ、響一のことは運転手としてこき使っていいわよ」と言い出し、オレと由羅は置いて行かれることになったのだ。  由羅はともかく、オレが行かないと莉玖がぐずるかと思ったが、なぜか莉玖はご機嫌で杏里と手を繋いでさっさと行ってしまった。  え、ちょっと淋しいぞ……?  杏里さん、一体どんな魔法を使ったんですかあああああ!?  オレは笑顔で手を振りつつも、そっと心の中で涙を流したのだった……   ***

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