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パパはライバル! 第354話

 ――謎の日課(ハグ&大好き)の件から数日後。  オレは朝食を作りながら、窓を伝う雫を眺めて小さくため息を吐いた。  昨夜帰宅した由羅に「明日は休みが取れたから莉玖は私がみる。綾乃はゆっくり休んでくれ」と言われて、今日は急遽オフになった。  由羅の仕事の都合で週末の代わりに平日が突然オフ日になることには慣れているので、いつものように図書館に行ってクリスマスや年末年始関係の絵本でも探そうと思っていたのだが……朝方降り出したこの雨は残念ながら一日中降るようだ。  土砂降りではないが、移動手段が自転車か徒歩しかないオレはどちらにしても濡れるわけで……わざわざ濡れてまで出かけなきゃいけないほど図書館に行きたいわけでもない。  うん、今日は大人しく……家の掃除でもするか!図書館はまた次の休みに行けばいいしな!  頭を切り替えて、どこから掃除しようかな~……と考えながら莉玖に朝ご飯を食べさせていると、食後のコーヒーを飲んでいた由羅が声をかけてきた。 「綾乃、今日は図書館に行くと言っていたな。車を出すから私たちも一緒に行ってもいいか?」 「え?」 「雨が降っているから自転車で行くのは大変だろう?あ……もしかして莉玖はまだ小さいから図書館に連れて行くのはダメなのか?」 「いや、別に騒がしくしなけりゃ大丈夫だ。小さい子ども連れで絵本を楽しめるようにキッズコーナーがあるし、ぐずったり大きな声を出すようなら一旦ロビーに出て気分転換すればいいし……でも、由羅は今日は何か予定があったんじゃねぇの?」 「あぁ、予定というか……今日は久しぶりに莉玖とふたりで公園に行こうと思っていたんだ。だが、この天気ではな……」 「……はい?」  由羅が、莉玖と、ふたりで!?  オレは意外な答えにマジマジと由羅の顔を見た。 「なんだ、その顔は?私はなにか変なことを言ったか?」 「え、いや……だって……」  由羅が休日に莉玖を連れて公園を散歩することは今までにもあったので、別に珍しくはない。  だが、それはまだベビーカーに乗せて押すだけだった頃の話で……  莉玖が歩けるようになってからは、由羅がひとりで莉玖を連れて公園に行ったことはないはずだ。  歩けるようになった莉玖は行動範囲が広がって益々目を離せなくなっているし、なにより最近は順調にイヤイヤ期に突入している。  しかもいまはパパイヤ期の再来のような感じで、何かするのをイヤがることが多い。  由羅とふたりきりだと莉玖は全力でパパイヤ状態になるため、いままで由羅が主にしていた毎朝の莉玖の世話も「パパいやぁ~!あ~のがいいのぉ~!」「おぱんちゅいやぁ~!」「ちっこいやぁ~!」……と泣きながら服を脱ぎ散らかして素っ裸になる莉玖と、服を着せようと奮闘する由羅の攻防戦になり、毎朝大騒ぎだ。結局時間切れになった由羅を仕事に送り出した後でオレが莉玖を落ち着かせて服を着せている。(パパイヤが酷い分、なぜかオレにはべったりなのだ。うん、超可愛い!)  そんな状態だから、由羅が莉玖とふたりっきりで公園に行っても遊ぶどころじゃないはずだけど…… 「それなら大丈夫だ。公園までの道中は大変かもしれないが、公園で遊び始めたらなんとかなるはずだからな!」  オレの心配をよそに、由羅はなぜか自信満々だった。  どこからくるんだその自信は……!?  由羅は前回のパパイヤ期の時にはだいぶへこんでいたが、一度経験したからか今回はあまりへこむことなく自分から積極的に莉玖に接している。  毎回「パパイヤ!あっちいって!」と拒否られて見事に玉砕しているが、そんなやり取りも楽しんでいるようで……  って、そうか。由羅はいまの状態を楽しんでるんだ!  いまの由羅なら“パパイヤ莉玖”をひとりで公園に連れて行っても大丈夫かもしれねぇな。オレはちょっと心配しすぎなのかも……?  なんにせよ、莉玖のイヤイヤはまだこれからしばらく続くだろうから、オレとしては由羅が成長して打たれ強くなってくれたのは嬉しい限りだ。    まぁ……そもそもパパイヤの再来になった原因は、オレからの“好き好きぎゅう~”を巡って由羅と莉玖がどっちが先にしてもらうか、長くしてもらうか……などというくだらない内容でふたりでオレを取り合っているせいなんだけどな!?  まったく……子ども相手に何やってんだよパパ……(やっぱりダメかもしれない……) *** 「――おい、綾乃。聞いてるのか?」 「へぁ?う、うん、聞いてますよ!?えっと、今日は公園に行くつもりだったんだろ?」 「あぁ。まぁつまり私も雨のせいで今日の予定が潰れてしまったんだ。だから綾乃が図書館に行くなら一緒に行こうかと……」  由羅たちと出かけるってことは、必然的に莉玖の面倒もみることになるからオレにとっては仕事の延長のようなものだけど……それは由羅もわかっているはずで、だからこそオレに「一緒に行ってもいいか?」なんてわざわざ聞いてきたのだろう。 「そっか、んじゃあ……よ~し、莉玖!みんなで一緒に絵本読みに行こうか!」 「あ~い!いこ~ね~!」 「そうと決まれば、お出かけの準備を……」  オレがさっそく出かける準備をしようと立ち上がった瞬間、玄関のチャイムが鳴った。 「私が出よう。はい、どちらさ……莉玖、綾乃、今日のお出掛けは中止かもしれないぞ」 「へ?」  モニターを見た由羅がハァ~~~っと長いため息を吐きながら玄関へと向かった。  あ……もしかして……?  由羅の反応で何となく想像はつく。  というか、こんな時間にやってくるのは……  オレは「誰が来たんだろうな~?」と言いながら莉玖と顔を見合わせ、悪戯っぽく笑った。 ***  

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