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働くパパはカッコいい? 第353話
「ちゅきぃ~!」
声の主はベッドの上でお座りをし、ニコニコしながらバンザイをしてオレたちを見ていた。
うん、可愛い~!……じゃなくて!!
「りりり莉玖ぅ~!?いつから見て……あの、これは……えっと……おい、由羅!離れろってば!」
莉玖に見られていたことに動揺して声が裏返る。
オレは慌てて由羅から離れようとしたが、由羅にがっちりホールドされていたせいでジタバタすることしかできなかった。
「おはよう、莉玖。ご機嫌だな」
オレをホールドしたまま平然と莉玖に話しかける由羅にちょっとイラっ!
こらぁ~~!爽やかに挨拶する前に手を離せよぉ~~!
「あ~のぉ~!ちゅきちゅきぎゅぅ~!り~くんもぉ~!」
莉玖は由羅の挨拶を軽くスルーすると、オレに向かって両手をあげた。
「んん?」
莉玖には毎日「大好きだぞ~!」と言いながらハグをしているので、オレが由羅とハグしているのをみて自分もしてもらいたくなったらしい。
まぁ……考えてみれば普通に服着てハグしてただけだから、莉玖に見られてもそんなに焦ることもないのか……
「うんうん、莉玖も“好き好きぎゅぅ~!”しような!……おい由……じゃなくてパパ!ほら、莉玖が呼んでるから!いい加減に離せってば!」
少し冷静になったオレは軽く咳払いをして莉玖に笑いかけつつ、オレを離そうとしない由羅の腕を軽く叩いた。
「すまないな、莉玖。パパが先約なんだ。ちょっと待っていてくれ」
「先約ってなんだよ!?もう今日の分は終わっただろ!?」
「終わってない。ハグだけで、まだちゃんと言ってもらっていないぞ?」
「言ったじゃねぇか!莉玖の声にかき消されただけだろ!?」
「いや、綾乃は『だいす……』までしか言ってない!」
「え~~……」
やだぁ~、この人こまか~い!もうそこまで言えばよくね?
「あ~のぉ~!ぎゅぅ~~!しゅるのよぉ~!り~くんもぉ~!パッパ、おてまぃ よぉう!」
「あ、はいはい!すぐ行……って、動けねぇ!あ~もう!パパっ!――」
莉玖がちょっとイライラした様子でベッドの柵をバンバン叩き始めたので、オレは早く莉玖のもとへと行きたいがために由羅にぎゅっと抱きついてヤケクソ気味に「だいす、き!」と「き」を強調して怒鳴った。
「ほら、これでいいだろ!?さっさと離せ!」
「……ハァ……まぁ今日はいいが……」
由羅はブツブツ文句を言ってなにやら納得いかないという顔をしていたものの、渋々離れた。
いやいや、何の文句があるんだよ!?ちゃんとハグして「大好き」って言ったじゃんかっ!!
文句を言いたいのはこっちだっつーの!
「莉玖ぅ~!お待たせ!」
オレは莉玖を抱き上げていつもよりも多めに頬をスリスリしながら、
「莉玖ぅううう!おはよぉおお!今日も大好きだぞぉ~~!宇宙一可愛いぞぉおお!好き好きぎゅぅぅぅぅ~~~!!!」
と抱きしめた。
「キャハハハ!りぃ~くんもぉ~!あ~のぉ~!ちゅきちゅきぎゅぅぅ~~!!!」
莉玖もオレの真似をしてスリスリしながらハグを返してくれる。
さらに今日は熱烈な“ほっぺにチュウ”までついてきた。
はぁ……今日もオレ幸せ……ほっぺがベタベタだけど。
***
しばらく莉玖を抱きしめて幸せに浸っていると、でっかい子どもが仏頂面でオレの顔を覗き込んできた。
「な、なんだよ!?」
「綾乃、私もそれがいい」
「は?……あぁこれ?莉玖、パパにも好き好きぎゅぅ~って……」
「そうじゃない!あ、いや、莉玖ともするが、そうじゃなくて……私が言っているのは綾乃とのハグのことだ!」
「オレ?」
「さっきみたいにおざなりなやつじゃなくて、それがいい!」
「えっとぉ……それはつまり……」
由羅に「今日も大好きだぞぉおお!好き好きぎゅぅ~~!」ってすんの?
「え、ムリ!」
思わず真顔になった。
「なぜだ?」
「なぜって……これは相手が莉玖だからで……」
「一路 たちにもしているだろう?」
よくご存知で。
「まぁしてるけど……でも、一路たちも子どもだし?オレだってさすがに大人相手にはこんな風にはしたことねぇよ!?」
「幼馴染たちにもか?」
なんでそこに幼馴染が出て来るんだ……?
「あいつらともハグはするけど、“好き好きぎゅぅ~!”は子どもの頃だけだぞ!?」
「……ふむ、そうか……」
『ねぇねぇそこのバカップルさん、時間は大丈夫なの?』
「バッ!?……あ!もうこんな時間だ!」
突然聞こえて来た莉奈の声で時計を見たオレはちょっと慌てた。
いつもの起床時間をとっくに過ぎていたのだ。
目が覚めたのがいつもより早かったから油断してた!っていうか、バカップルじゃねぇよ!
「あ~、えっとパパ、その話はまたあとだ!ちょっと朝飯と弁当作って来るから、莉玖頼む!」
「ん?あぁ、おいで莉玖」
由羅も時計をチラッと見ると、納得したように頷いてオレから莉玖を抱き取った。
が……
「やぁあああ!パッパあっちいってぇ~!あ~のがいいのぉ~!」
由羅に抱っこされるやいなや、急にご機嫌斜めになった莉玖が平手で由羅の顔をペチペチ叩いたり向こうへ行けとばかりに押したりしながら全力でイヤイヤを始めた。
「あらら……なぁ莉玖、綾乃は今から美味しいご飯作ってくるからな!パパにも好き好きぎゅぅ~ってしてあげてくれよ」
「やぁ~!パッパ、ぎゅぅ~、ちない!あ~のいくのぉ~!」
オレは「うんうん、先に下で待ってるからな~」と笑顔で手を振ると素早く部屋を出た。
「あ痛っ!こら、莉玖、叩くのは止めなさい。痛いじゃないか。綾乃にはすぐ会えるから!今はパパで我慢してくれ。ほら、莉玖はパパとおトイレ行こうな」
「ちっこないの!いくないの!――」
背後から聞こえて来るふたりのやり取りに苦笑いしながら台所へと急ぐ。
どっちも頑張れ~!
***
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