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働くパパはカッコいい? 第352話
「――っ!?」
翌朝、オレは学生時代に初めて寝坊をした朝と同じ勢いで飛び起きた。
「ぅぇ……」
あ、いきなり起き上がったせいでちょっと眩暈が……じゃなくてっ!!
ん?ベッド……ってことは、あれは……
「なるほど、夢オチかっ!だよな~!あ~びっくりしたぁ~!」
「どんな夢だったんだ?」
「ん~?それがさぁ、オレってばマヌケなことに寝ぼけて由羅本人に由羅のユラさんがでかす……って、ぅわあっ!?」
タイミングよく話しかけられたので思わず素直に返事を返しかけて隣を見ると、由羅が肘枕をしてオレを見上げていた。
ここは由羅の部屋なんだから、いるのは当たり前なんだけど……き、聞かれてた!?
「いいいつの間に起きて……」
「少し前だ。綾乃がうなされていたから起こそうとしたんだが、私が起こす前に綾乃が飛び起きた」
「え、オレうなされてた?」
「ああ」
そうか!悪夢だったからうなされてたんだな!
「ちなみに、綾乃が寝ぼけて私に抱かれたくない理由をぶちまけたのは夢じゃないから安心しろ」
「ピャッ!?」
微かな希望を打ち砕かれて思わず変な声が出た。
悪夢の方が良かったぁああ!!
なんでオレはよりによって由羅にあんな話を……っ!
寝ぼけていたとしても、本人に言うとかあり得ねぇだろ……!?
もうこうなったら……
「ん?……綾乃?……おい、手に持っている照明を置け!何を考えているんだ!?」
「え?これで由羅をポンって殴ってほんのちょっと記憶を……」
「目が据わってるぞ!落ち着け!」
「だいじょ~ぶ!オレ、オチツイテル!」
「落ち着いている人間はそんなことしない!ほら、早くこっちに寄越せ!」
「……ぁっ、くそっ!離せよぉ~~!――」
抵抗も虚しく、あっさりとベッドサイドライトを由羅に取り上げられ、これ以上暴れられないように由羅に手首を掴まれてベッドに押し倒された。
「まったく、何をやっているんだ!危ないだろう!?」
「う~~~!だってっ!由羅記憶力いいから忘れねぇじゃんかぁあああああ!」
「だからといってこうやってすぐに物理攻撃で忘れさせようとするな!綾乃の悪い癖だぞ!?」
え……オレそんなにしょっちゅう物理攻撃してる?
「……だいたい、なぜ忘れなきゃいけないんだ?私は綾乃の気持ちを知ることが出来て良かったと思っているんだが?……まぁ……内容がアレだから少々複雑ではあるがな……」
由羅が少し気まずそうに視線を逸らした。
「へ?」
「いや……んん゛、内容はともかく!がっつくような歳でもないし待つのは別に苦ではないが……拒否されている理由がハッキリしないとあることないこと考えてさすがに不安になる。いくら紳士的な私でも不安が募れば自棄 になって綾乃を無理やり襲ってしまうかもしれないな……」
「え゛!?」
誰が紳士だって……?
っていうか、仏頂面で物騒な話をするな!冗談なのか本気なのかわかんねぇんだよ!!
「だから、私が自棄を起こさないようにちゃんと理由は知っていた方がいい。そうだろう?」
「そそそそうですね!!」
オレの心の声が聞こえたのか、由羅がにっこり笑った。
前言撤回!笑顔は笑顔で何か裏がありそうで怖い!
「じゃあ、昨夜のことは忘れなくてもいいな?」
「ハイイイッ!」
「私に毎日ハグをして“大好き”と言ってくれるよな?」
「ハイッ!もちろ……んえ?」
「よし!」
「え、ちょっ……まてまて!なんだ今のは!?」
慌てて起き上がり、ベッドから出ようとしていた由羅の服を掴む。
なんだか今どさくさに紛れて変な条件が混ざっていたような……
「ん?」
「ハグとなんだって?」
「ハグと“大好き”だ。綾乃に“待て”をされている私の心身の安定のために必要だからな」
「心身の安定……?」
ハグは大人同士でも幸せホルモンが出るから心身のリラックス効果もあるんだっけ……?
たしかに、オレも由羅に抱きしめられると……なんか安心するけど……
それをしたら由羅が自棄を起こさないってことか?
っていうか、ハグはだいたい由羅の方からしてくるから毎日のようにしてる気が……
由羅がさも当然という顔で言うので、そういうものかと納得しかけて首を傾げた。
「……綾乃、まだか?」
気がつくと、首を傾げてうなっているオレに向かって由羅が両手を広げて待っていた。
「……え、今!?」
「この流れは今だろう?まぁ、私はいつでもいいし、何回してくれてもかまわないが?」
どんな流れだよ!?っていうか……
「……い、一日一回だけで十分だろ!?」
「莉玖には何回もしているくせに……まぁいい。一日一回だな?」
ちょっとむくれつつも由羅がニヤリと笑った。
あ……れ?なんかデジャヴ……オレまんまと嵌められた……!?
しょっちゅう同じような手に引っかかってんなオレ……もしかしてバカなのかな?……うん、知ってた。
「それじゃあ、さっそく今日の分を……」
「だから、なんで今なんだよ!?」
「夜がいいのか?」
「え?あ~……」
そうだ!夜になったら由羅も忘れてるかも!?由羅の帰りが遅かったら先に寝ちゃえばいいし!
「綾乃が忘れても私が覚えているから大丈夫だ」
「ですよね~」
「ちなみに、その日のうちに出来なかった場合は翌日に二回だからな?」
「ぅげっ!?……あ~もう!わかったよ!ほら、ハグ!」
オレは諦めてさっさと今日の分を終わらせることにした。
幼馴染や子ども相手だと平気なんだけど、由羅に自分から抱きついていくのはちょっと勇気がいるんだよな~……
気合いを入れてやんわり抱きつくと「しっかり密着していないと効果がないぞ?」と由羅にギュッと抱きしめられた。
オレから抱きつく意味!?
「綾乃……もうひとつは?」
「わかってるって!よし、言うぞ!えっと……だ……だ……い……だい……す……――」
「ちゅきぃ~~!!」
「「えっ――!?」」
オレが言うのと同時に……いや、オレよりも先に、可愛い“ちゅき”が室内に響いた。
オレたちは一瞬顔を見合わせるとふたり揃って声の主を見た。
***
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