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第1話
10年間…全身全霊でやってきたバンドを辞めて、ドイツへ移住して、9才年下の同性の恋人にプロポーズした。
ややこしい手続きに悪戦苦闘しながら、なんとか無事に入籍をした。(同性婚が認められているドイツに感謝!)
新しい仕事もバンドも軌道に乗って、俺たちは結婚式も新婚旅行もすっ飛ばして、でっかい買い物をしました。
それは家。
中古だけど、一応庭付きの一軒家。
静かな郊外の住宅街で、生活には車が必須になるが、学校も病院も近い。
「着いた~!
やっぱいいね! 我が家!」
翔は車を降りると新居を見てそう言った。
翔も珊瑚もフリーの仕事をしていて、翔はこの国では外国人だ。
珊瑚の収入証明だけでは希望する広さの家を借りるのが難しくて、でも家(鍵のかかるこども部屋)がないと珊瑚の弟アッシュ、心臓病を抱える末の妹のサチと一緒に暮らせない…。
同性婚は出来ても養子縁組をするには条件が厳しく、翔は言葉も不自由なため、2人は何度も行政の面談を受けている。
「2人じゃ広すぎるねー。
早くアッシュとさっちゃんと住みたいね。
ってかさー、おじいちゃんたちが一緒なら問題ないのかな?もうみんなまとめてここに呼んじゃう?(笑)」
翔は優しい声で珊瑚に告げた。
パートナーの家族との同居なんて、普通は嫌がるものなんだろうけど、翔はいつも親身になって助けてくれる。
祖父母も弟たちも翔のことを自然に受け入れてくれていて、珊瑚はずっと手に入らないと諦めかけていた夢のような幸せを噛み締めている。
"家族の形は、血筋なんかに拘らなくても深い愛情が互いに築ければ心から繋がれるのよ"
祖母が弟たちを養子にした時に言っていた言葉が改めて胸に響く…。
養子縁組が認められても、認められなくてもずっと今まで通り家族だ。
もちろん、離れて暮らす双子の片割れ紅葉も、すぐ下の大学生の弟アビーも、医者になるために親戚の家に下宿する予定の妹のレニも、アビーが教師になって戻るまで自分が祖父母を支えると言ってくれたちょっと生意気な弟のフィンも…。
2人の事情を知り、翔のために通訳をしてくれているのは、友人である日本人の圭太だ。
空港職員として働く彼は遠距離恋愛中に何度も珊瑚のもとへ足を運ぶ翔に興味を抱き話しかけてくれた。(浮気未遂で謝罪のために来た時とプロポーズで来た時は緊張する翔がヤバイ奴に見えてたらしい…)
圭太もドイツ人の男性と結婚していて、境遇が似ているのでいろいろと相談にのってもらっているのだ。
とりあえず住む場所がないと何も進まないと、悩んだ挙げ句、翔は自分の貯金で家を一括購入することを珊瑚に提案した。
収入が不安定なので貯金を使うことはかなりリスキーだけど、お互い仕事を頑張って質素に暮らし、また貯蓄することにした。
2人は友人たちに恵まれ、大型家電はドイツで出逢った翔の新しい音楽仲間が、ダイニングテーブルと椅子は珊瑚の地元の友人たちが揃えてくれた。
子どもたちが使うベッドやチェスト、机や学校の制服代などはLinks、LiT J、他にもバンド仲間や凪の両親、池波氏までもが出資してくれたのだ。
家族として正式に認められるにはまだ時間がかかりそうだが、みんなが応援してくれる気持ちが嬉しくて、2人は「絶対家族になろう」と改めて決意した。
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