14 / 17

第12話

複雑すぎる手続きとビザの申請、養子の申請にも追われてその当時は結婚式なんて思い付かず、記念写真も新婚旅行も何もしていなかった翔と珊瑚。 珊瑚の希望で、改めてパーティーを開くことにした。 ドイツの結婚式は全て自分たちで手配を行うので、費用は抑えられるが手間はかかり、準備も大変だ。 贅沢をしたいわけではないので、家族と親しい友人、翔の音楽仲間を招いて珊瑚の地元のレストランで食事をするだけの簡易的なパーティーにした。招待した以外の人たちも集まってきて、アットホームで賑やかな記念となった。 会場には珊瑚が撮った翔とのツーショット写真や家族の写真も展示されていて、装飾は弟、妹たちが風船や折り紙、花飾りを手作りしてくれた。 リモートでLinksのメンバーやLiT Jのメンバーも参加し、Linksスタジオでバンド演奏をして場を盛り上げた。 パーティーは日本語と英語とドイツ語がガヤガヤと入り雑じる。 「フィンー! こっち! パスっ!」 「行くぞー! アッシュ!」 「だー! こら、アッシュ! フィン! ボールはダメだって!」 何故かレストラン内でサッカーボールが飛び交い、それを止めようとする翔の叫び声… しかし計算されたかのようにボールはケーキの上に落ちていく…! 「「「NOーっ!」」」 何人もの叫びと一瞬の沈黙、そして爆笑が会場を包む。 その後も… 「あ、サチ! それ辛いかも…」 「からいよ…っ!」 「お水、お水っ! あっ!」 サチが誤って辛い料理を食べてしまって、アビーが水を取ろうとしたら溢してオロオロしていたり… 「これ美味しいー!」 「ハハハー」 「レニもじいちゃんも飲み過ぎるなよ?」 お酒が飲めるようになったレニとお酒が大好きな祖父をハラハラしながら宥める珊瑚… 夜… 「疲れた…。」 はちゃめちゃなパーティーを終えてさすがに珊瑚も疲労を訴えた。 「はは…っ! なんかスゴかったね。」 「みんな自由過ぎるんだよ…! さすがドイツ人。 もう二度とやらないからなー!」 「結婚パーティーなんだから一回きりでしょー?(苦笑)でもさー、だいぶ濃い想い出が出来たね!」 「…まぁ、そうだな(笑)」 翔にそう言われて珊瑚も笑った。 「今日…ありがと。」 珊瑚は改めてお礼を伝えた。 「ん? こちらこそー! 楽しかった! ありがとう!」 「…バタバタしてる中でもじいちゃんに寄り添ってくれて助かった…。」 「うん…。 おばあちゃんがまだ来てないって不安そうにしてたから…!」 亡くなった祖母の席も用意したのは、自然な流れからだったが、認知症の症状がみられるようになった祖父はパーティー前に混乱していたのだ。 「女の人は支度に時間かかるって言ってくれたんだろ? それで納得したみたい。 おかげで徘徊もせず、落ち着いてくれて、ご機嫌で酒飲んで、いびきかいて寝てくれてるから良かった。」 「あぁ、ご機嫌だったね! なんかさ、認知症の人にどう接するのが正しいのか分からないし、知識もないからさー。 一緒に待とうって…言っただけなんだけどね(苦笑)」 「そっか…。 でもアンジュ見て紅葉だって言ってたし、やっぱり認知症進んでると思う…。 施設も考えないと…。」 今は昼間は隣の親戚宅で過ごし、夜は実家に戻ってくれたアビーとフィンでみているのだが、負担が多くなってきているので介護を考えようという珊瑚…。 散々世話になった祖父…本当は自分で世話をしたいが、仕事も抱えているし、弟たちと養子になったアッシュ、サチのことで手一杯だ。 最近は翔が休みの日に合わせて泊まったり、様子を見にきてくれている。 他にも下宿をしているレニが問題を起こした時も駆け付けてくれたり、相談にも乗ってくれているようで、珊瑚の知らないところでたくさんのフォローをしてくれているパートナーには感謝しかなかった。 「でも大好きなおばあちゃんを探してるおじいちゃんを放っておくのは出来ないよ…! ほんと、昔の話はすごいちゃんと覚えてるんだよ!…ドイツ語だから残念ながらあんま分からないけど…(苦笑) ね、もう少しだけ様子見ない?」 「でも翔に負担が…!」 「…無理はしないって約束する。 珊瑚を育ててくれた大事な人だからさ。 一緒にチェスしたり、ボーっとすることくらいしか出来ないけど、俺にも手伝わせてよ。 おじいちゃんもこの家も離れたくないだろうし、一緒にいたいじゃん?」 「……なんでそんなに…! じゃあ俺がこの家戻るよ。」 「珊瑚職場遠くなるでしょ? せっかく軌道にのってるのに…! 休みの日に交代で通おう。 パートナーなんだからピンチの時は助け合わないと! 俺は珊瑚が大事にしてる人を俺も大事にしたいだけだよ。みんなが自分の家族だって思ってる。」 「翔…っ!」 感無量で翔に抱き付く珊瑚。 優しく抱き止めた翔は穏やかなキスを贈った。 「俺は…幸せ者だな…。」 翔の結婚指輪に口付けた珊瑚は小さく呟いた。 「…可愛い…! 珊瑚がデレたっ!」 「バカッ!」 「痛っ!!(苦笑)」 「…家戻ったらサービスしてやる。」 ここ(実家)では恥ずかしいからと珊瑚は翔に約束をしてくれた。 「ホントっ?! やった! 約束ねっ! すっごい期待しとくー!」 翔は嬉しそうに小さくガッツポーズをすると、珊瑚を抱き寄せておやすみのキスをした。 End

ともだちにシェアしよう!