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第4話

4. 『ちゃんと学校では上手くやれているの? 紅』  通話の向こうで女性が心配そうな声を上げる。紅は持っているスマホをぎゅっと握って大丈夫だよと答えた。元々住んでいた土地に残って、おおよそ普通のオメガにはできない仕事量をこなす母はとても心配症で、月一に電話をしてきては同じ質問をする。それに、紅は嘘で答えていた。  学校で上手くやれた試しなんてない。“上手く”というものがどういうものを指しているのかは知らないが、少なくとも右京美樹に目を付けられている今は完全に上手くいっていないだろう。 『今月も口座に生活費を振り込んだからちゃんと使いなさいね』と言う母に小さく笑って答えると、母は納得したように電話を切った。口座に毎月振り込まれる金額は、高校生がひと月暮らすには多すぎる金額だ。紅の口座はそれこそしばらくは遊んで暮らせるほど口座にお金がたまっている。  元より、自分の遊ぶお金は自分で稼ぐという約束で始めたバイトなのだが、そもそも、遊ぶ相手は蒼しかいないし、蒼には高木咲(たかぎさき)という彼女がいる。そう頻繁に呼び出すのも申し訳なくて、その給料を使うのはたまに外食やデリバリーを頼む時くらいだ。  元々、そういう約束のはずなのに、母が同じ目的に使うための金を余分に振り込むので銀行にお金が余って仕方がない。そういうのはいいから、最近付き合っている男性との時間やお金を大切にしてほしいと訴えたが、逆に怒られてしまった。 「うまく、か」  ため息を吐いて通話の切れた画面を見つめる。カレンダーは今日を土曜日と示している。学校がないことをいいことにずるずると八時過ぎまでベッドに潜り込んでいた自分を叱りつけて、漸く這い出る。朝ご飯を作って食べないとと伸びをする紅のスマホが着信音を鳴らした。こんな早い時間にかけてくるのは母くらいだけれど、今しがた通話を終えたばかりだ。何か言い忘れたことでもあっただろうか。そう思ってスマホの画面を見て、紅は顔を強張らせた。  右京美樹と表示されている液晶を割ってしまいたい。そう思う。一方的な約束を結ばされた自分には、出ないという選択肢は到底ない。仕方なく通話ボタンを押して、震えた声でもしもしと言うと、憂鬱な自分とは正反対に明るい美樹の声が機械越しに響いた。 『おっはよー紅ちゃん! 起きててえらいねえ。今から古川達と映画行ってからカラオケ行くんだけど、来るでしょ? 十時に駅に集合ね』 「待って、右京……」 一方的に約束を取り付けると、美樹はさっさと通話を切ってしまった。まるで紅に用事なんてないことを知っているかのように。  ため息を吐いて軽く朝食を取って適当に準備を済ませると、時間に間に合うように家を出る。紅の家は駅から歩いて十分のところにあるので急に言われても困ることはなかった。  駅に着くとひと際目立つ四人組を見つける。遠巻きに覗き込むと、美樹、古川、八木、河合の四人が楽しそうに談笑していた。その中に混じるのに抵抗があったが、遅刻して怒らせても面倒なので仕方なく、美樹の顔目当てで騒いでいるオメガの男女を押しのけて彼らの前に立った。 「お、おまたせ……」 「早いね~! 紅ちゃん。よしよし、ご褒美上げる」  時間よりも少し早く来たのに、もう全員集まっていることに驚いたが、待たせたことで不機嫌になっていないだろうかという紅の心配をよそに、ご機嫌な様子の美樹がピンク色の飴玉の封を切って口元へと持ってくる。食べろという無言の圧に負けて、ぱくりとそれを口に含むと甘酸っぱい味が広がった。美樹が、意味深に笑う。 「じゃあ、映画観る前に一仕事しよっか」 「おー」  大きく伸びをする美樹とそれに同意する三人に意味が分からないと、紅が頭に疑問符を浮かべていると、その細い腕をぐいっと美樹が強く引いた。思わずつんのめりながらついていくと、彼らは駅から出て人通りの少ない方向へと歩いていく。  この辺でいいかと何か話し合った後、狭い路地の方に曲がる美樹たちを見て、紅の頭になんだか嫌な予感が走る。少し奥の方へと行ったところで美樹がくるりと振り返った。恐ろしいまでに楽しそうな笑みを浮かべて。 「じゃあ、紅ちゃん。はじめよっか」  何を、という間もなく、後ろに立っていた古川が紅の肩を掴む。混乱した頭で八木と河合を見ると、二人はにやりと笑った。紅のジーンズへと大きな手を伸ばす河合とは正反対にスマホを操作していた八木が美樹に画面を見せて何回か言葉を交わすと、一人路地から出ていく。その方向へ紅は手を伸ばしたが、その手は前を塞ぐようにして立った美樹に掴まれた。 「紅ちゃん。ただ映画みるだけじゃあ、つまらないと思わない?」  美樹がするすると指を絡ませてくる。親指の腹で人差し指の付け根を擽られて、ピクリと身体が震えた。声を出そうと思ったが、こんな一歩出たらすぐ人目があるところで騒いだとして痛い目を見るのは自分だと分かって、紅は唇を噛んだ。 「すぐ済むからさ。慣れてるし、大丈夫だよね」  河合によってジーンズが引きずり降ろされる。半ばあきらめた気持ちで、美樹の手の中のそれを紅は見た。  黒色の小さいT字型のシリコン製のそれは、所謂アナルプラグというものだろうか。今まで使われたことのない、バイブ機能が付いているらしいそれに不安げな表情を浮かべていると、美樹は楽しそうに笑った。 「あー、これね、まだ開発途中らしいんだけど、古川が試しに使ってほしいっていうからさ紅ちゃんレビューとかそういうの得意そうじゃん? 丁度いいよね?」  何がだ。そういいたい気持ちを必死に堪えて紅は美樹を見た。手に持ったアナルプラグは本体にスイッチがないところを見ると遠隔操作の物だろう。きっとまた、美樹がスイッチを握っているに違いない。  試しに首を小さく左右に振るが意味はなく、紅の股間の前にしゃがんだ美樹が足を広げさせ、まだ濡れもしていない蕾に指で触れた。ふむ、と呟いて河合に声をかけると、河合は古川の迷彩柄のリュックからローションを取り出した。  それを受け取った美樹が手のひらで少し温める。そのぬめる液体を塗り込む様にして固く閉じた紅の後孔に人差し指を挿入する。何度か抜き差しして、孔が解れると、先ほどのアナルプラグを手に持った。  紅の荒い息遣いが路地に響く。今誰かがここに入ってきてくれたらなんて考えが頭を過ったが、右京美樹は頭もよくて機転の利く男だ。そんなこと物ともしないだろう。  ぐっと押し込まれたそれが、みっちりと孔に嵌って、動くたびに陰茎の内側が刺激される。もどかしい刺激にもぞもぞと腰を動かしていると、美樹が紅の下着を上げて、リモコンを慣れた手つきで操作し始めた。 「―!? ッ?はっ、ん……んんっ」  微弱な振動がしたと思った次の瞬間、立っていられないくらいの刺激が、紅の身体を襲う。足から力が抜けて、自分を捕まえている古川に寄りかかる。浅く息をして必死に襲い来る快楽から抵抗するが、美樹がそれを止めることはない。 「これ、つけながら映画観ようね。周りにバレねーようにしねえと、社会的に終わっちゃうかも! はは、そうなったら今度こそ、俺のもんになってくれるかな? ね、あーかチャン」  クスクスと嗤う声が頭に響く。悔しくて、情けなくて、紅は唇を噛んだ。絶対に思い通りになんてなってやらない。こんな、こんな奴の番になんて、なってやるもんかと必死に自分を責め立てる快感から理性を保った。 ***  人通りの多いところに出ると、プラグの振動は小さなものに切り替えられていた。少し産まれた心の余裕に熱くなった体をぱたぱたと手で仰ぐ。美樹に古川がなんの映画にしたのかと問うたので、そちらに意識を傾ける。今はなにか別のことに集中していないと、少しでも意識をしてしまったらそれで最後の気がした。 「あれ? お前聞いてねえの? 今日は恋愛映画だよ。涼介が見たいんだってよ」  答えたのは河合だ。涼介とはここにいない八木の事である。 「まじかよ。美樹もみてえの?」 「俺は興味ないよ」 「だよなー。涼介の趣味、悪いんだよなぁ」  古川がそうぼやくと美樹がクスクスと笑った。古川と河合が首を傾げる。 「俺はいい趣味だと思うよ。紅ちゃんが、好きそうだもんね」  ニコッと笑って、自分の方を見た美樹に顔を歪める。恋愛映画なんて一番苦手かもしれないものを好きそうだと言う男に不快感が増す。だが、未だに微弱な振動を続ける玩具のせいで油断すると変な声が漏れるかもしれないという恐怖から、それを否定する術はない。  代わりとばかりに美樹を軽く睨んでみたが、くすくすと笑うだけで大した効果はなかった。 「そろそろかなあ」  駅横のショッピングセンターの十五階を目指して昇るエレベーターの中で、ふと美樹がそんなことを呟いた。古川と河合は意味を理解しているらしく、紅を見てにたりと笑う。不気味なそれに紅が一歩後退ろうとした時、それは起こった。 「―……っ!? あぇ?」  じわりと侵食するように身体が熱を帯びる。先程まで我慢できていたその小さな振動ですら耐えがたいほどの快感が身体を駆け巡り上手く息ができない。どくどくと激しい胸の音が頭に響く。突然のことに理解が追い付かないまま、膝をついて隣に立っていた美樹のズボンを掴んだ。 「なに、これ……あつい……」 「ふふ、効いてきたね。さっき食べた飴、覚えてる?」  思わず、そう尋ねると、美樹が楽しそうに言った。その言葉に、ハッと気が付く。ピンク色の甘酸っぱい物。あれが頭に浮かんで、嫌な予感がした。 「あれね、媚薬入りの飴なんだよ。古川に頼んでさ、作って貰ったんだよね。どう? 効く?」  ニコッと笑った男の顔が悪魔のように見える。効くなんてものじゃない。身体が熱くてどうにかなってしまいそうだ。 「映画、二時間あるけど……耐えれるといいねえ」  よいしょ、といいながら紅を立たせて、よしよしとその丸い頭を撫でる。顔をほんのりと赤く染めた紅が小さく息を乱しているのを見ながら楽しそうな美樹は、十五階に着いたエレベーターを紅の手を引いて降りる。急に引っ張られて、孔の中のプラグがこりっと前立腺を掠めてびくりと身体が跳ねた。 「ん、ふぅ…………」  必死に声を我慢している紅の手をぐいぐいと引いて、時間の割に人の少ない映画館のロビーをどんどん突き進んでいく美樹は、入場口の前で待つ八木を見つけると紅の手を掴んでいる方とは反対の手を上げて声を掛けた。お待たせ、と笑う美樹に八木がチケットを渡す。後ろにいた河合と古川にもそれが渡ったのを確認して、美樹はすたすたと入場口に立つ女性に話しかけた。 「学生五人でー」 「学生五名様……あ、右京様でしたか、大変失礼しました。七番シアターへどうぞ」  丁寧な所作で柔らかく微笑んだ女性は、七番と手を揃えて指示した場所を美樹が確認すると深々とお辞儀をした。六番や八番に入って行く人はそこそこいる中で、七番だけは人が入る様子がない。どうやら、右京家の力で、七番シアターは貸切っているようだ。その事実に気が付いて、紅はほっと胸を撫でおろした。 「安心した? 紅ちゃん」  美樹がくすっと笑う。見透かされていたことにびくりとして、身体を固くする。バイブがちょうどいいところに当たって、つい声が漏れそうになって唇を噛んだ。 座席の並びは、真ん中の方に集まって、左端から河合、美樹、紅、八木、古川となっている。広い空間の中で、本編前のコマーシャルの間に、美樹は楽しそうにスイッチを操作する。 急激に強くなる振動に身体の疼きが満たされて、射精感が高まっていく。がたがたと内またになった足を震わせて、あともう少しでイく、という瞬間になって、プラグの振動が緩められた。  ぽかんとした顔をしていると、またプラグが激しく振動を始める。そもそも、座っているので深く刺さって、余計に感じてしまう。声を、誰もいない貸し切りとはいえ、映画の邪魔をして後から文句を付けられるのは嫌だという一心で、必死に声を我慢する。涙が浮かんで、ぽろぽろと零れた。 「ん、ん……んぅ……」  媚薬入りと言われた飴の効果で、余計に感じてしまう身体が憎らしい。必死に堪えている声はなんとか大音量で流れる映像の音声にかき消されてはいるが、この調子だと映画には集中できそうにない。スクリーンには、上映中の注意事項が流れ始めていて、ヒートが起きたらなんてことを案内している女性がオメガ用非常口の存在を知らせている。 「上映中はお静かにーだって、紅ちゃん。声我慢できなくなったら、言ってね。そん時は、二人でホテル行こ」  美樹が紅の耳に小声でそう囁くとくすっと笑う。冗談じゃないと強く唇を噛んで、紅は小さく首を振った。それを見た美樹がリモコンを弄ったのか、さっきまで緩まっていた振動が急に強くなった。ガタリと前の座席を蹴り上げるほど身体が跳ねて、前かがみになる。目の前にある背もたれを左手で掴んで右手の人差し指を噛む。  スクリーンに浮かぶ映像では、一組の男女がキスをしていた。濃厚で深い口付けに、女性が息継ぎのタイミングで小さく声を漏らす。大人の色気のあるそれを興奮した様子で見る至って健全な男子高校生の八木たちとは違って、さも当たり前のように平然とした様子で頬杖をつきながら、つまらなさそうに見ていた美樹は、上着のポケットに突っ込んだリモコンをカチカチと親指で弄ぶように操作した。  びくり、とそれに応えるように身体を跳ねさせる紅の様子を盗み見て、にいっと口元に笑みを浮かべる。耳まで赤く染めた少年は、前かがみになって必死に声が零れそうになるのを堪えていた。その姿は、美樹の加虐心をくすぐる。  どす黒いその感情を、到底紅には理解されない行動を、彼は愛と名付けていた。  愛しているから、好きだから、すべてを自分で満たしたい。こんな作り物のスクリーンに描かれるような紛い物の感情じゃなくて、口先だけじゃなく紅のすべてが欲しい。映像の男女はすぐに愛しているだとか離れたくないだとか言うが、結局いつかは離れていく。さようならを突き付けられれば、恋人なんて関係は一瞬でパアだ。紅に優しくしてただ付き合って、それで何になる? 彼の熱が冷めたら、それですべて終わりだ。  欲しい物は必ず手に入れる。手に入れたものは自分から捨てるまで傍に置いておく。それが美樹の絶対だ。飽きて要らなくなるまでに、向こうから捨てられるなんて、プライドが絶対に許さない。佐渡紅と思いが通じたとして、付き合えたその先はなにがある? 紅が項を噛むことを許すまでじっと待つのか? 犬のように従順に? 冗談じゃない。  紅が自分を百まで愛することは奇跡に近い。ましてや、家の力を使って調べたら、紅はアルファの父親に捨てられているのだ。そう簡単にアルファである自分に心を許すとは思えない。奇跡が起こるのを待つくらいなら、持てるすべてを利用して、その身も心も支配したい。美樹は、ただそう考えた。  だからこそ、紅を敢えて抱かず、気紛れに汚し、虐めた。その結果、彼の心に自分という人間が映り込む隙間を無理矢理に作り上げた。それがどれだけ歪んでいるかは置いておいて、あまりにも計画通りに進んだそれに美樹は歓喜した。  ただ、三つの悩み事だけは、未だ頭を抱えているが。  悩み事の一つは紅がいつまで経っても心を折らずに番になると言わないことだ。これに関してはとても困っている。その辺のオメガはチョーカーをしていないので適当にヒートを誘発して項を噛んでしまえばいいだけなのだが、紅は違う。母親が大枚をはたいて買ったあの赤いパネルに青いセンサーのついた黒地のチョーカーがある。あれだけは、右京家の力を持ってしても外せない。そういう仕組みになっている。  あれがなければ監禁して制限を付けて一生飼い続けることも考えたけれど、あのチョーカーはとても複雑な仕組みになっていて、GPS機能を搭載しているモデルもある。紅のは恐らく特注品だろうから、そのオプションが付いていてもおかしくはない。 外すのも、使用者本人の意思のみに限られているし、美樹にとっては本当に目障りなもの以外なにものでもない。  ふと、紅の首元を見る。変わらずそのチョーカーは鎮座していて、思わず顔を顰めた。まるで、紅自身から拒絶されているようで、気分が悪い。  悩み事の二つ目と三つ目は、紅を取り巻く人間だ。高木葵。紅を気遣う目障りなアルファ。右京家の力を持ってしても排除できない厄介者。これに関しては、まだ紅が自分に従うから大丈夫としておいて、問題は四堂蒼だ。紅の幼馴染で端的に言えばスポーツが得意な好青年。誰からも慕われていて、美樹とは系統の違った人気者。学校は違うがよく紅の家を出入りしていると聞く。美樹自身も何度か見かけているし、紅の知らないところで接触したこともある。思うに、彼女を抜いて紅に見せるあの表情、間違いないだろう。それが今、何よりの問題だ。唯一の救いは、蒼がベータだということ。  美樹の見る目が間違っていなければ、だが、たぶんおそらく、  四堂蒼は、佐渡紅に恋している。 *** 「面白かったね、紅ちゃん」  くったりと身体から力を抜いてソファーに倒れ込む紅に楽しそうに美樹が言った。映画は二時間と十五分でエンドロールを迎え、その間ずっと小さな玩具によって弄ばれていた紅は、がくがくと足を震えさせて立てなくなっていて、美樹の背中で真っ赤な顔を隠す様にしておんぶされながら、映画館を後にした。  そのまま適当に誰かの家にでも連れていかれるんだろうと思っていると、予想に反して連れてこられたのは大手のカラオケチェーン店だ。店名は紅もよく知っていた。  受付なんてしらないとでもいうようにすたすたと歩いていく美樹は、我が物顔でリラックスルームと書かれた部屋に入って行く。彼の頭越しに見た部屋は茶色を基調に全体的に落ち着いた雰囲気の部屋で、靴を脱いで上がるタイプのマットの床に十人ほど座れるくらいのふかふかのソファーがある大部屋だ。どうやらこの場所も、右京の力が及んでいるらしい。  もう体力の限界を感じていた紅は美樹の背中から降ろされると、くったりとそのソファーに身体を沈めた。美樹と紅の分のジュースを持ってきた八木と河合が二人の前にコップを置いて、自分たちは床に座り食事を頼むためのタブレットを手に取る。 「なー、プラグどうだったよ?」  古川が一人遅れて部屋に入ってきた。トイレに行っていたらしい彼は黄色のタオルハンカチで手を拭きながらそう美樹に尋ねる。美樹はというと、だらりと動かない紅のおでこを撫でながら楽しそうに笑っている。 「紅ちゃんに聞かなきゃわかんないでしょ」  くすくすと笑う美樹に古川がそれもそうかと頷く。手伝うか? と首を傾げる彼に美樹はしっしと手を振った。 「感想聞いたらお前らは別の部屋行けよ」  美樹が三人にそういうと、八木がへーいと声を上げた。それを見て、美樹はぼうっとしている紅の頬を軽く叩く。 「紅チャーン、聞いてた? 古川が知りたいらしいからさ、感想教えてあげてほしいなー」  ニッコリと笑う美樹に紅が不愉快そうな呻き語を上げる。もう、手も足も動かしたくないほど、疲れているのだ。首を緩く振って意図を伝えようとする。いくらほとんど毎日同じようなことをされていても、疲労感は消えない。  紅の橙のような紅色の瞳が美樹を映す。その顔は、楽しそうに笑っていた。 「口で答えらんないなら身体に聞くしかないかー」  見せつけるようにリモコンをポケットから出して、美樹は言った。カチッと音がして、すぐ、紅がびくりと跳ねた。。 「アッ、も、やめ……アア! アッ、んぅ」  いきなり強い振動が前立腺を刺激する。美樹の左手が、紅の尻に入っているアナルプラグを服越しに、ぐりっと押し込んだ。  奥に食い込むように押し込まれたそれは、一番深いところには届かなくて、紅はもどかしさに頭を振った。がりっとソファーを掴む紅の手を握ってその額にキスを落とすと、美樹は鋭い眼差しを古川に向ける。  さっさと出ていけという目線に、古川はごくりと息を飲んで河合と八木の肩を叩く。もつれるように部屋を出ていく三人を見て、美樹はため息を吐き、紅を仰向けにさせた。 「あーかちゃん。抜いてあげるから力抜いて」  優しくそう囁いて頬にキスをすると、紅は荒い呼吸を何度か吸って吐いて、恐る恐る身体から力を抜いた。  美樹は紅の履いていたジーンズを半分だけ脱がせると、彼の両足を肩に乗せて、ぐりっとシリコン製のそれを掴んで抜き取る。入っていたものを失ったそこはひくひくとひくつき、ピンク色の穴が物欲しそうに収縮していた。  中指をゆっくりと挿し込むと、驚いたように手を伸ばして頭を押してきたので、その手を振り払って、孔をぐりぐりと指で穿る。すると、紅は堪えきれなかったのか、小さな声を漏らした。 「ねえ、紅ちゃん。ここどうなってるかわかる? 物欲しそうにしてるけど」 「しらない、しらな、あ、あっ、んぅ……ふ、ぁあ゛っ」 「知らないってことないでしょ? 紅ちゃんの身体だよ? ほら、めっちゃ締め付けてるし、いれて欲しいんじゃないの?」  ねー、聞いてる? と美樹は首を傾げた。ソファーの背もたれを掴みながら、声を必死に我慢しようとする紅の孔をぐりぐりと無遠慮に弄繰り回していた男は、仕方がないとため息を吐いてその指を引き抜く。 「ちょっと音楽かけた方がいいかもね。紅ちゃんもそうした方がしっかり喘げるっしょ。セックスするのに、声出してもらわないとやっぱ寂しいわ」  はーっ、はーっと荒く息を吐く紅を見て、美樹はポケットからハンカチを出して手を拭き、カラオケの端末をいじくって適当にお勧めに出ていた最近流行りの曲を送信した。音楽が流れ始めたことを確認して、美樹は再び紅の前に立つ。 「さ、俺とセックスしようね、紅ちゃん」  カチャカチャとベルトを外す音を響かせながら、美樹の暗い栗色の瞳が、紅を映して、嗤った。 4 終

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