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第1話

夢を見た。電車の中で泣いている男の子の。 周りの人はその子に目もくれず、スマホへと視線を落としたり、談笑をしている。 「どうしたの?」 そう声をかけると、男の子は嗚咽混じりに「お母さんがいないの」と答えた。話を聞くと、ジュースを買うためホームに降りた母親が、戻ってくる前に電車が発車してしまったらしい。 「そっか…、じゃあお兄さんと一緒に次の駅で降りよう。」 よしよしと頭を撫でると、男の子は涙で潤む瞳を俺に向けた。少し赤みがかった目からボロボロと大粒の涙を零し、「うん」と頷くと俺の膝の上へ座る。 不安と恐怖を背負うには、とても小さすぎる背中。…その背中に、俺は何故か懐かしさを感じた。 「じゃあ、よろしくお願いします。ボク、またね。」 「…うん。」 結局、一駅戻って母親を探してみたが会えなかったため、駅員さんに預けて俺は再び電車に乗り込む。プシューと音を立てながら扉が閉まり、俺はずっとその子のことを見ていた。 小さくなって、見えなくなるまでずっと…。

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