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第1話

 佐倉奏(さくらかなで)は、自分のクラスである二年五組に足を踏み入れた。瞬間、白いシャツが目に入り、そのまま硬い胸板に体が突っ込んでしまった。 「ぶっ!」  ぶつかった反動で奏の小柄な体が後ろに傾いた。 「わわっ……」  そのまま倒れるかと思い思わず目を瞑ったが、奏の小さな後頭部が大きな手の中にすっぽりと包まれた。 「大丈夫か?」  そっと目を開けるとと、眼鏡の男に見下ろされていた。寝癖で跳ねまくった黒髪に表情が伺え知る事のできない瓶底眼鏡。 (モサオか)  ぶつかった相手はクラスメイトのモサオ事、笹尾(ささお)だった。見た目がモサッとしている為、付いた渾名がまんま『モサオ』だった。 「いや、俺も前見てなかった。悪い、笹尾」  そう言って奏は軽く手を挙げた。笹尾はこちらを一瞥すると無表情なまま眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。 (嫌いってわけじゃないけど、なんか苦手……あの眼鏡で顔の表情分かんないし、デカイから妙に威圧感あるし)  きっと、そう思っているのは自分だけではないはずだ。あまり誰がといるのを見た事がなく、人に対して壁を作っているように思えた。  笹尾はそのまま廊下へ出ていき、自分は教室の中に入った。 (体型は結構好きなんだけどな)  笹尾の広い背中を無意識にじっと眺めた。  自分の性癖に気付いたのは割と早く、小学校五年の時だ。隣の席の男の子を好きになり、その後も男しか好きになる事はなかった。  見た目が小柄で、亜麻色の髪は外国の子供のようにクリクリとした天パ。美少女並みのその容姿で、奏の横に並ぶ事を女子は嫌がっているようだった。  そんな見た目であるが故に疑われることも度々あったが、頑なに否定した。  とにかくゲイである事を隠し、高校生活は平穏無事に過ごしたかった。

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