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第10話
「ただ今ー」
不意に玄関から母親の君江の声が聞こえ、二人は大きく肩を揺らした。
奏は慌てて服を正し、何事もなかったように母親を出迎えた。
「遅くなっちゃってごめんね……あら、ケイコーチ。あっくん! ケイコーチ来てるわよ!」
君江の言葉に玄関からドタドタと慌しい音が聞こえ、弟の秋が現れた。
「ケイコーチ!」
秋の左膝には痛々しいガーゼと足首には包帯が巻かれていた。
「お邪魔してます」
ケイはソファから立ち上がり、頭を下げる。
「どうですか? 具合は」
「軽い捻挫ですって。だから、治るまではテニスはお休みするようなの」
その言葉に秋が抗議の声を上げている。それを宥めるようにケイが秋の頭に手を置き、秋に何やら言い聞かせているようだった。
その光景を奏はぼうっと見つめていた。先程まで、ケイとキスをし互いのモノを触り合った。そして、好きだと告白された。
不意に笹尾の顔が浮かび酷く罪悪感が込み上げ、胸が締め付けられたような痛みを感じた。
奏はケイが帰ろうとするのを見ると、玄関を出てケイを呼び止めた。
「あ、あの……!」
奏に気付き、ケイは目の前に立つと、
「本気で好きなんだ。付き合って欲しい」
そう言われた。
脳裏に笹尾の顔が浮かび、
「少し……考えさせて下さい」
そう口から出ていた。
「うん……じゃあ、また」
ケイを見送ると、奏は暫くその場から動く事ができなかった。
ずっと憧れを抱いていたケイからの告白を受け、憧れから一気に恋愛対象になってしまった。笹尾を好きだと自覚したと思ったら、そこにケイの存在が並んでしまった。
(どうしよう……笹尾が好きなのに、ケイコーチの事も好きになっちゃったよ……)
奏の小さな頭の中は混乱し、気付けば涙がポロポロと溢れていた。
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