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第15話
結局奏は、笹尾とケイは別人だと思い込み勝手に三角関係だと思っていた。蓋を開ければ三角関係でも何でもなく笹尾とケイは同一人物、というオチで終了した。今思えば、妙な違和感はこれだったのだと安易に気付く。奏の思い込みと笹尾の言葉足らずな部分も重なり奏は拗らせてしまっていた。一人で三角関係だなどと勝手に悩んでいたのが、今となっては恥ずかしい。
一方笹尾は、まさか奏が《笹尾とケイは別人》だと思っていたとは夢にも思わなかった。知らなかったとはいえ奏が悩んでいたと知り、笹尾の胸は酷く痛んだ。
なぜ、どちらとも付き合う事をしないという決断に至ったか、奏を問いただしてみると、伊藤からのアドバイスだったという。
『おまえの性格上どちらかと付き合うとか、ましてや二人同時に付き合うのはきっと無理だ。だったら、どちらとも付き合うのはやめた方がいい」
そう言われたのだと。
「余計な事を……!」
少しおバカであるが故、素直な奏は伊藤のアドバイスをまともに受け止めてしまったのだろう。
「でも、結局はいとティが俺たちのキューピットって事になるんだよね」
笹尾的にはそれもなんだか癪ではあったが、そういう事になってしまう。
「まぁ、そうだな。伊藤さんがテニスの相手してくれるって条件で引き受けた事だったから」
「そうだったんだ。今もいとティがテニスするの想像できない、俺」
「昔は結構凄い選手だったんだよ、今はあんなだけど。何度か相手してもらったけど、一回も勝てた事ないし……」
そう悔しそうに笹尾は言った。
「でも、今回は勝てそうな気がする……」
いつもヘラヘラしている伊藤だが、変に鋭いところがある男だ。もしかしたら、奏の二人の好きな人が自分だった事に気付いていたのではないかと思えてくる。もし、それに気付いていて奏にアドバイスをしたのならば、許すまじ言動である。その怒りの矛先をテニスにぶつけてやろう、そう思った。
笹尾は赤くなってしまった奏の目元にそっと触れると、
「好きだよ、奏。改めて……俺の恋人になってくれますか?」
そう言うと、奏は再び声を上げて泣いた。
「俺も……好き、大好き! 笹尾の……ケイコーチの恋人になるーー!」
そう言って笹尾に抱きついた。
「なんか、複雑だなそれ……」
「笹尾とケイコーチに好きだって言われた時、凄く嬉しかったけど、どっちかなんて選べなくて……心が壊れそうだった……」
「うん……辛い思いさせてごめん」
「でもね、今は大好きな二人が同じ人だったなんて、凄く得した気分!」
そう言って、涙を拭いながら奏は笑った。
互いに見つめ合うと二人は唇を重ねた。
後日、笹尾は伊藤とのシングルス対決を圧倒的な強さで初勝利を収めたと聞いた。
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