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「ケーキいかがですか~? お安くなってますよ~」
もうあと30分もしたら日付が変わる。
まだまだ人通りはあるけど、さすがにこの時間から繁華街のコンビニでケーキを買ってくれるお客さんは少ない。
でっかい体に全然サイズの合えへんサンタコスチュームで、それでも残り2つになったケーキをなんとか売ってしまおうと俺は更に声を大きいした。
それでもパーティーを楽しんだんか、これから待ってる人の所に向かうんか、白い息を吐きながら声を張る俺を気にかける人はいてへん。
クリスマスイブはどうしてもみんなバイトは休みたがる。
デートにコンパにライブ...ある意味今日の為に普段仕事を頑張ってるような奴が多いんやし、別にそれはしゃあないよなぁと思う。
何年も俺にはこの日に休まなアカンような用事なんか無いんやし、仕事をみんなの分までこなさなあかんのを苦に感じた事は無い。
まあ、死ぬほど忙しいんは間違いないけど、実際俺まで休みたいなんて言うたらこの店臨時休業になってまうし。
オーナーには、『気にせんと休んだらええんやで』って言われてる。
『24時間くらい、ワシ一人でなんとか回すがな』とかなんとか。
んなもん、できるわけない。
元々が繁盛店やのに、イブのコンビニを一人で回すとか、下手したら暴動が起きかねん。
そんなんはあの人もわかってるはず。
でも、あの人はそういう人やから...家追い出されて途方にくれてた俺を雇ってくれて、安いアパートまで見つけてくれた人やから。
店より人を大切にしたいって思うてくれる、すごいおやっさんやから。
せえから俺も、オーナーには精一杯恩返ししたい。
俺が家を追われた理由を聞いて尚、態度も口調も表情もなんも変えへんかった人。
実の親よりもずっと親やと思える人。
本部からのきっついノルマのせいで売れ残ったケーキも、バイトに押し付けるような事はせえへん。
全部自腹で買い取って、明日以降のバイトメンバーに『いっつもありがとうな』って配ってくれる。
今年こそ!と思うて、俺は日が落ちる前から外で声をかけ続けた。
売れ残りなんか出せへんて、めっちゃ気合い入ってたし。
おかげで値段下げる前にかなり数を減らす事もできたし、値引きするんを待ってたみたいに一気にお客さんも来た。
「まあ、この時間なったらさすがにもう無理か...」
2個くらいなら俺が買って帰ったらええ。
オーナーは『余計な気ぃ遣うな』とか言いそうやけど、『朝飯にする』って言うたらそれ以上は止めへんやろう。
手のひらに息を吹きかけ、必死に擦り合わせる。
中にはヌクヌク下着にヌクヌク股引きまで着けてそれなりの防寒対策はしてるけど、手袋なんかは着けるわけにいかんから段々感覚が麻痺してきた。
「もうエエか...」
ワゴンを中に引っ張り込もうとした俺の目の端に、奇妙なモンが映った。
「......サンタ!?」
俺の見間違いでなければ、目の前をサンタクロースが歩いてる。
それも、2~3歳のガキンチョサンタクロースが、トナカイの人形をカラカラと引きずりながら。
なんだか足元も覚束ない。
「ぼ、僕っ! ちょっと待って!」
思わず声をかけた俺にチラリと向けられたその顔は驚くほどに大人びてて整ってて...歩き方や体つきとのアンバランスさにヒュッと一瞬息を飲んだ。
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