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第1話
目を覚ましたら、消毒液臭い真っ白い部屋の中で、君が手を握っていた。
きっと、ずっと握ってくれていたんだろう。
ぎゅっと力を入れて握りなおされて、暖かくて嬉しくて、精いっぱい握り返した。
涙で天井がにじむ。
手に込められる力で、お互いの気持ちが理解できた。
大好きだった。
愛してた。
だけど、ごめん。
ごめんなさい。
もう、無理だ。
堪え性がないと責められてもいい。
君の家族や婚約者とやらに、ほらやっぱりその程度の覚悟だったのかと言われてもいい。
愛がたりないのだと、君にあこがれていた奴らにあざ笑われたら、甘んじて受けよう。
君のために別れるなんて、きれいごとは言わない。
自分のためだ。
こんな風にあからさまに悪意を向けられて、刃傷沙汰になって入院するのはもうごめんだし、罪悪感にまみれた君の顔は見飽きた。
『結婚しよう』
かつて君がくれたのは、何のひねりもないシンプルな言葉だった。
天にも昇る気持ちになった。
きっとこのまま、幸せなまま一生過ごしていけるだなんて、一点の曇りもなく信じていた。
性別や家柄の格差や、周囲の人の反対なんて、些細な障害だと思っていた。
悪意を向けられるようなことじゃないって、たかをくくっていたんだ。
「指輪、返す……」
「……ああ」
かすれた声で交わしたそれが、最後の会話。
気持ちが途切れたわけじゃない。
今でも好きだ。
でも、一緒にはいられない。
人間関係がこうやって変わるなんてこと、小説やドラマの中だけだと思っていた。
自分の気持ちじゃなく、外からの圧力で変えられるなんて、思ってなかったんだ。
愚かで幼い恋だった。
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