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第2話

秀爾(しゅうじ)……しゅう? どうした?」 そっと肩を揺さぶられて、目を開ける。 薄闇の夜明け前。 この時間に目を開けるのは嫌いだ。 寒々しい空気に、何もない部屋を思い知らされる気分になる。 指輪を返したあの日から、オレの眠りは浅くなって、明け方寒さに目が覚めることが増えた。 何年も何年もの間、ずっと。 明け方夢を見て目を覚まし、ベッドの上に君のぬくもりを探して落胆する。 すっかり落胆まで込みで習慣になってしまった。 「ん……」 寝返りを打とうとして、動きづらいことに気が付いた。 そう、今までは目が覚めたら一人だった。 いつもは一人寝のベッドに、今朝は他人の体温がある。 「理人(まさと)?」 「どうしたんだ? 夢でも見たのか?」 心配そうにオレの顔を覗き込んでくる男が、そっと目じりに指を這わせる。 志藤理人(しとう まさと)。 オレのかつての男。 記憶のままの声。 記憶にある通りの匂い。 けれど、記憶とは違う面差し。 若々しく精悍だった顔は、歳を経て趣を変えた。 その頬に手を添えて、確かにそこにいることを確認する。 「理人。……夢……を」 「夢?」 「……いや、忘れたよ……何か見たような気もするけど、覚えていない……」 安心させるように笑いかけて、オレの頬を撫でる手を捕まえ、唇を寄せた。 すべては過去の話。 今朝はこんなに温かい。 「秀爾」 オレの名を呼んで、理人が指を口腔に差し込む。 上あごを撫でさすられて、顔をそむけたところで唇にとらわれた。 「……ん」 「秀爾……欲しい……」 熱のこもった眼で見つめられて、腰の奥が熱くなる。 「こんな早朝から?」 「爺は早起きだって相場が決まってんだよ」 「昨夜だって、結構遅かったと思うけど……ぅんっ……」

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