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第7話
オレと理人は、あの日、終わった。
やけぼっくい?
こんなに愛情深い男が、未練を残したまま結婚なんてできるはずがない。
「君の目から見て、おばあさんは不幸せだったのか? 違うだろう?」
「秀爾」
オレが言い返したのが意外だったのか、理人が目を見張る。
「やけぼっくいだ? 焼け残りなんて何もない。残りがあるような、中途半端な気持ちで別れてなんかない。
理人はオレを忘れて家庭を持ったし、オレだってオレの時間を重ねてきた。あの頃のままじゃない。また、出会ったんだ。また好きになった。オレは、今の理人に恋をしたんだ」
正面から孫を見て言い切る。
「どうせなら、老いらくの恋といってくれ」
くつくつと理人が喉の奥で笑った。
「秀爾……俺が誤解させたな、すまない」
孫の前でもお構いなしで、理人が俺を抱き寄せてこめかみにキスをする。
「おい、爺」
「新婚家庭に押しかけてきたんだ、これくらい我慢しろ。まず俺の再婚は、朱音の遺言だ」
オレの反論がお気に召したのか、理人がご機嫌になって、順序立てての説明をやっと始める。
「『世の中の迷惑になるからさっさと再婚しなさい』というのが、遺言でな。冗談だと思っていたら千加志たちに、さんざん見合いをさせられた。一時、いろんな女が出入りしていたろう」
「あれ、あんたの遊びだと思って……親父だったのか……」
「冗談じゃない、俺は朱音一筋だったんだ。だから、あの時は選べなかったろう。十年たって、やっと出会えた。今は秀爾だけだ。……俺に財があることは障害にしかならんから、処分して生前分与にした。家は、朱音が気に入っていたから処分するのは忍びない。朱音が気にかけていたお前にやる。俺は秀爾のヒモになるからな」
当然のようにヒモ宣言する理人が、かわいいと思ってしまうなんて、ホントに終わってると思う。
「おい、ヒモって?! え、じゃあこのシニアマンションは?」
「オレのだ。昔、財がないことが障害になって反対されたから、オレが購入した」
老人たちの生活のための諸々が完備されたマンションは、オレの終の棲家だ。
入籍も済ませたこれからは、理人との愛の巣でもある。
混乱しきりの孫には悪いが、爺の意地だ、もう譲らない。
オレたちの桃色な老いらくの恋は、これからなんだ。
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