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第7話
食事の後は、地面に小さな絨毯を敷いてもらい、横になって寝ろと言われた。自分も火の番をすると言ったが、慣れているから平気だと彼は言う。
「ウルクもいるし、仮眠は取れる。一晩くらいは平気だ」
「でも……」
「今日は疲れただろう。明日はずっと馬の上だ。休めるときに休んでおくといい」
確かに、身体も心も疲れて――そして暖かい火の前にいると、今すぐにでも瞼がくっついてしまいそうだけれど。
ふわあ、と思わずあくびも出てしまい、クスクスと笑われる。
「気にしないで休め。でないと明日は倒れてしまって、また野宿になるぞ」
そう言われてしまえば仕方がない。ただでさえ足手まといだ。彼にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「ありがとう、アル。それじゃあ、休ませてもらいますね」
アルの言葉に甘えて詩倫は絨毯の上に横になった。
そうして詩倫がぐっすりと眠りに落ちたときだ。
詩倫の傍で伏せていたウルクが、グルルル……となにかを警戒するように喉を鳴らした。詩倫もその声で目を覚ます。
「アル……?」
見るとアルは鋭い目つきであたりを窺っていた。
「シリン、その木の陰に隠れていろ。ウルク、シリンの傍にいてシリンを守れ」
硬い口調でアルが言う。のっぴきならない事態のようだ。詩倫は言われたとおりに、木の陰に身を隠す。ウルクはアルの言葉がすべてわかっているというように、詩倫にぴったりと寄り添って離れなかった。
詩倫が木の陰に移動した、その直後だ。
ヒュン、となにかが飛んでくる鋭い音が聞こえた。と思った途端、馬のいななきが聞こえる。夜盗だろうか。それとも昼間詩倫を襲った者たちが仕返しにでも来たのだろうか、とごくりと息を呑んだ。怖くて震え、奥歯までカタカタと鳴ってしまう。傍にいるウルクも神経を尖らせて、低く喉を鳴らしていた。
馬がこちらへ向かって駆けてくる。一頭だけではなく、複数いる。焚き火の炎に照らされた影しか見えないが、アルは剣で戦っているようだった。金属のぶつかり合う音がして、男の低い呻き声が聞こえてくる。
夜の闇に紛れて襲いかかってくるなんて、とアル一人に戦わせるばかりの自分を不甲斐なく思う。が飛び出したところでアルの足手まといになるだけだ。
どうしようと思っていると、突然アルが指笛を鳴らし、独特の節回しで歌のような声音を出す。そしてまた指笛を鳴らす。
その音は夜の闇に高く響き渡った。
そして指笛の響きが消えたときだ。
いきなり数匹の狼の群れが現れ――こちらに向かってやってきた。
「――――ッ」
詩倫は目を見開いたまま、瞼を閉じられずにいた。夜盗に加え、狼もとは。詩倫はいてもたってもいられず、木の陰から飛び出そうとした。
しかし次の瞬間、信じられない出来事が起こる。
狼たちの群れが、夜盗に向かって襲いかかったのだ。夜盗の乗っていた馬はパニックに陥り暴れ出す。そして夜盗を追い払ってしまったのだった。
「シリン、大丈夫か」
ようやく、静けさが帰ってきたところでアルに声をかけられる。
「大丈夫……アルは……?」
「平気だ。こいつらが助けてくれたからな」
狼の群れを引き連れたアルがそう答える。もしかして、アルは狼を味方にすることができるのだろうか。あの声と指笛は……。
アルは狼の一匹に残っていたウサギを与えると、もう一度指笛を鳴らした。すると狼たちはおとなしくウサギを咥えて立ち去ってしまう。
「もう大丈夫だ。またあいつらがやってきても、狼たちが見回ってくれている。安心して眠るといい」
アルは詩倫を安心させるように肩を抱いて火の傍に座らせる。
不思議なことを言う、と思いながら詩倫は疲れとホッとしたのとで、意識を手放した。
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