ラララ〜 　誰か歌っている。すごく綺麗な声。 　心が安らぎ幸せな気持ちになる。 　白亜は夢を見ていた。子供の頃、裏柳と遊んでたあの頃、一緒に勉強したあの頃、木登りをして怒られたっけ。でも楽しかった。あの頃が一番良かった。お互いの性や番とか、婚約者とか身分や地位、そんなものを意識する事なく無邪気に笑い合っていたあの頃。 　僕は何をしてたんだっけ？ 　裏柳の気持ちが僕に無いのは知っていたのに。権力で裏柳を僕に縛り付けようとしてしまった。 　彼が僕から逃げるのも当たり前だ。 　どうして僕たちはあの頃のまま無邪気で居られ無かったのだろう。 　愛してる彼を傷つけたのは他でも無い僕だ。 　彼は今、どうしているのだろう。 　無事に生きてくれてさえ居れば良い。 　僕はもうそれ以上望まないから…… 「ハッ！」 　急に強く揺さぶられ目が覚める。 　まるで深い水の底から誰かに手を捕まれ、無理矢理引き上げられた様だった。 　いや、でも僕、本当に海に突き落とされたんだっけ！？ 「大丈夫？　魘されてた」 「え？　誰……」 　綺麗なプラチナを靡かせる美女。美女？ 　胸が無さ過ぎだよね。 　え？　肌？？ 「なんて破廉恥なんだ！　服を着ろ！！　僕に何をする気だ！！」 「ご、ごめん。私、何もしないよ」 　魘され涙を流す白亜に見ていられずマーメイは上半身をバリアの中に入れ肩を揺さぶって起こしたのだが、起きてくれたのは良かったが、酷く怯えさせてしまった様だ。 　バリアから出て一旦、落ち着かせる事にする。 　マーメイは下半身が水に浸かっていれば、上半身だけなら空気に触れていられる。流石に肺呼吸では無いので人工呼吸は命がけであったが、無事に意識が戻って良かった。 　やはり瞳も綺麗だ。透き通る様な水色。まるでトパーズ。 　もしかして彼は海に帰って来た妖精なのかもしれない。 　そんな事を思い、バリアの外からマジマジと見つめてしまった。 　白亜はバリアに手置き、何か見えないモノに囲われてると気づく。 　それになんだここ？　まるで水の中の様な…… 　綺麗な魚が泳ぎ、立派なサンゴも見える。 　それにさっきの裸の人、よく見たら下半身が魚…… 　人魚？ 　ああ、やっぱり 「僕は死んだんだなぁ〜」 　白亜は独り言の様に呟く。 　だってそうとしか考えられない。 　海の中で大きな貝殻の様なベットに寝かされているのだ。 　凄くフカフカだけど、よく見たら海藻の様だし…… 「生きてる。嵐の中海に出るなんて無茶。ちゃんと貴方の国まで送り届ける。安心して」 「………」 　白亜はマーメイの言葉に返事が出来なかった。 　もし本当に一命を取り留め、白の王国に帰して貰ったとして、また弟に命を狙われる。 　気をつけて隙を見せず、自分が確りしていれば、危機も回避できる筈であるが、下手をすれば弟に付く兵と此方に分かれ、戦に発展しかねない。 　白亜は可愛い弟と命のやり取り等、したくないのだ。 「どうしたの？」 　黙ってしまった白亜を心配し、声をかけるマーメイ。 「僕にはもう、帰る場所が無い……」 　項垂れてしまう白亜。 「え？　もしかして生贄にされたの？」 　それで嵐の海に突き落とされたんのだろうか。だが最近は海も穏やかだったし、地上で干ばつ等も無い様子。海の幸だって沢山取らせてあげているのに、人間は何が不満だったのだろう。 　これ以上、何を望んでそんな事をするのか、マーメイには全く分からなかった。 「……うん」 　全然違うのだが、第二王子の弟に裏切られ海に突き落とされた等と本当の事を言いたくも無い。出来れば忘れてしまいたい。 「えっと……　僕は生贄とか要らないから、そういうのは人間が流刑になる島に置いてくるんだけど……」 　いつもはそうしているが、でもこんな綺麗な宝石をあんな無法地帯に置いて来て大丈夫だろうか。 　絶対駄目だ。直ぐに殺されるか身ぐるみ剥がされて襲われるかである。 「どっちが良い？　此処に住む？　それとも流刑島でも人間の住む場所が良い？」 　絶対、嫌だと思いつつも無理強いする訳にも行かず、マーメイは白亜の希望を確かめる。 「此処に住んでも良いの？」 　白亜も流刑の島に連れて行かれるのは流石に怖かった。 「うん、私は大歓迎」 　ニコッと微笑むマーメイに、白亜もフッと表情を和らげる。 　やっと笑ってくれた。やっぱり笑顔も妖精みたいに可愛い。 　マーメイは嬉しいくなり、泳いで嬉しさをアピールする。 「わーすごい、イルカみたいだね」 「私はイルカじゃない。マーメイ、貴方は？」 「マーメイ、僕はハク……　宜しくね」 　白亜は名前を言いかけて止める。白亜と名乗ると白の国の王と解るかも知れない。海の中に住む人魚に地上の事は解らないかも知れないが。 　それにこうなってしまったからには、気持ちを入れ替え、王ではなく普通の人になりたかった。 　白亜では無く、全てを忘れてただのをハクとして生きていこう。そう決めたのだ。 「ハク、宜しくね」 「此方こそ宜しくねマーメイ」 　マーメイドは空気のバリアに手を入れて握手を求める。白亜もマーメイの手を振り返した。 　こうして、マーメイと白亜は一緒に暮らす事になったのだった。