20 / 36

第20話

 幼い子供を慈しみ、涙を流しながら一生懸命人工呼吸を施している白亜に、マーメイは思わず見惚れてしまってた。  彼はもしかして聖母なのかも知れないと、崇めたくなる程である。  白亜が人工呼吸を施した子供はゲホゲホと咳き込むと、幸いにも呼吸を開始してくれた様である。  白亜はホッとした表情を見せた。 「この子どうしようか、白の国に帰してもまた生贄にされるかも知れないし、島流しされる島に置いてくる?」  マーメイは子供を抱きしめる白亜に確かめる。  と、言っても犯罪者も居る島流しの島に置いてくるのはもう見捨てる様なものだ。 「……僕が面倒見るよ」  子供なんて勿論育てた事は無いし、不安だが、今、国に返すのも、島流しの島に置いてくるのも偲びない。  この子の両親や家族も心配しているだろうし、帰してあげたかった。 「マーメイはさっき海を荒れさせているって言っていたけど、なんでそんな酷い事をするんだ? 人間に恨みでもあるの?」  思わずキッと、マーメイを睨んでしまう白亜。 「違うよ。私は人間を愛している。誤解しないで」  白亜に恨めしい視線を送られ、傷つくマーメイ。 「どうも白の王国の王が変わったみたいなんだけど、正統な王でないみたい。それに海を荒らされた。不躾にも程がある。私だって怒ってる」  ムッとした表情をするマーメイ。怒っていると言うよりは拗ねた顔だ。 「制裁だって言うのか? それで子供や他の人が犠牲になっても構わないの?」 「そんな事…… 海に生贄を捧げているのは人間の勝手な行動で、私は望んでないよ」 「そうかも知れないけど、こうなるって解っているだろ!」 「じゃあ、ハクはこのまま放っておいて珊瑚や海の生態系を壊滅させされて私達に滅びろって言うの? 海の生態系が壊滅したら白の王国だって困るでしょ?」 「それは……」  確かにそうなのなだが、白亜は腑に落ちないし、解りたく無い。  マーメイは残酷だと思う。 「……正統な王じゃないってどう言う事?」  白亜は腑に落ちないが質問を変える。  弟はちゃんと血が繋がっている。紛れもなく王家の血筋だ。自分に何か有れば王位を継ぐのは弟である。正統な筈だが…… 「さぁ、人間界の事は私にはよく解らないけど、神々から愛されていない王であるからこんな事態になっていると思う」 「神々から愛される?」 「白の王国の王は特別でね。まぁ、当事者は解らないだろうけど、正統な王は神々から愛され、守られているんだよ。正統な王が行方不明か、幽閉されているか解らないけど、今の王は精霊達から怒りをかっているだろうね。現に私も怒っているし」 「よく解らない……」  珍しく冷たい声で説明してくれるマーメイはやはり怒っているのだろうが、白亜にはよく解らない。  僕は神々から愛されていただろうか?  常に孤独であったし、唯一まともに接してくれた裏柳だって僕を捨てて行方をくらましてしまったし、可愛がっていた弟には謀反を起こされた。  全く幸せなんて無かったじゃないか!  眉唾話しにしか思えない。 「そうだね。ハクには関係ない話。忘れて」  フフっと苦笑するマーメイ。  実は当事者ですとは今更言い出せない。  海を荒らしたのは僕の弟なんだって言ったらマーメイはどうするだろう。  僕にも怒りを向けるだろうか。  それは流石に寂しいな。 「白の王国の王は死ぬまで王じゃないといけないのかなぁ……」  ポツリと漏らす白亜。  ただのハクとして生きたかった。でも王を辞めるなんて無責任だった。  弟の事も心配だし、国民の事だって心配である。  自分が戻っても現状が変わるかどうか解らないが、少なくとも現状のせいで弟が死刑にされる事は止められる。  変わりに自分が死刑になるだろうが……  海の事に関してだけならマーメイに話せば解っても貰えるだろうか。  僕は今まで通り、乱獲したり海を荒らしたりしないと誓える。  そもそも弟は何故そんな無茶な事をやらかしたのか。   話を聞かなければ。 「ううん、ちゃんと後継者を産むか教育して、ちゃんと手続きを踏めば大丈夫だよ。神からの祝福を受けられたら、ちゃんと王として神が認めるはず」  マーメイは何気ない独り言だと思いつつも、説明する。 「そう言えば」  確かに子供の頃に何かした気がする。  子供の頃過ぎて記憶が曖昧だが。   何か凄く眩しかった気がする。 「ねぇ、この話はもう辞めよう。子供が起きそう。ここだとびっくりさせちゃいそうだから、島に送るね」  マーメイは白亜に空気のヘルメットを渡すと、子供にも空気ヘルメットを作ってあげた。 「あ、うん。有難う」  白亜はヘルメットを付けて、子供にも被せる。  空気の部屋から出ると、マーメイは白亜を抱きしめ、島にまで泳ぐのだった。

ともだちにシェアしよう!