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第30話

 白の国は絶望的な状態から瞬く間に盛り返し、白亜は偉大な王として民から崇められるようになっていた。  白亜が戻ってきた翌日には何も無かったかの様に雪は消え、空は晴れ渡り、海も穏やかになった。  白亜は城の門を開け、民に食べ物分け与えた。  余りがあり、城に食材を献上した者には白亜からお礼の言葉と祝福を送った。  白亜が戻って、既に天候も回復していた為、それだけでも十分光栄な事だと、民は手元に有った食材を全て城に寄付したのだった。  城のコック達やボランティアがそれらを上手く使い節約料理等を作って、民達に振る舞った。   白亜も覚えたてだが手伝った。  皆で作っ料理は少くとも楽しく、暗く重い気持ちが吹き飛んだ国民達は踊りを踊ったりして楽しんだ。  それから全員で力を合わせ、一から畑を耕し、山は木を少しずつ植林した。  白亜は現場に出て指揮を取ったり、畑を耕す作業も手伝った。  それでも毎日夕暮れ時には海に向かい、花束を贈って祈りを捧げた。  それは国が少しでも元通りになって欲しいという気持ちも有ったが、それよりも海に行きたい気持ちの方が大きかった。  何故か海を恋しく思うのだ。  毎日恋人に会うような心持ちであった。  海に来る疲れも吹き飛び、早く約束を果たして会いに行かなければと思うのである。  だが、約束とは何だろう。会いに行かなければならないとは誰か、白亜自身解らなかった。  無人島で同じ島に流れ着いた子供、朽葉をそこに偶々現れ少し手助けをしてくれた謎の男、漆黒の元に預けてしまったので、早く迎えに行かなければならないと思っている。  だが、それじゃない気がするのだ。   他に大事な人と大事な約束をしたのに、自分は忘れてしまっている。そんな気がしてならなかった。  白亜が城に戻り、一ヶ月が過ぎようとしていた。  国の状態も落ち着き、山の木々も増えた。植林した木の成長スピードが早くスムーズに進んでいる。  食物も、海の幸は良く取れているし、まだ植えたばかりの穀物等は取れる程育って無いが、順調だ。  収穫量も半年程経てば元に戻るだろう。  それまでは近隣の国が支援してくれる事になり、国民の生活も標準的なものに戻ってきた。  まだ食べ物に困ったり、貧しい家には城から配給しているが、半年程ならば城の貯蔵庫も尽きたりはしない筈だ。  一難は過ぎ去った。  そろそろ朽葉も心配であるし、迎えに行きたいと思うのだが、困った。  忙しくてすっかり思い当たらなかったが、漆黒と言う謎の男との連絡手段が無かった。  白亜はハッとして頭を抱えた。  朽葉は無事なのだろうか。  凄く心配だ。

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