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第1話

「遺伝子レベルで一目惚れした! 結婚してくれ!」  寺澤拓也(てらさわたくや)からそんな衝撃的な言葉をかけられたのは、中学二年生の時。藤本千尋(ふじもとちひろ)が新しい学校に転校してすぐのことだった――。 「ええと、それは……」  こんなことを急に言われたら、大抵の人間は面食らってしまう。  千尋はもともと人見知りな性格だったため、初対面の拓也の台詞を「冗談でしょ?」と笑い飛ばすことができなかった。  何と答えていいかわからず、つい真面目に返事をしてしまった。 「気持ちは嬉しいけど、男同士じゃ結婚はできないでしょ。日本じゃまだそういう、同性婚の法律ってできてないし」 「じゃ、法律ができたら結婚してくれるのか?」 「ええと、まあ……一応、可能にはなるね」 「よし、わかった。じゃあ法律変えてくる」 「……え? 本気?」 「当たり前だろ。俺はやると言ったらやるんだ。遺伝子レベルで一目惚れしたなんて、初めてだしな」  再びそんなことを言われ、今度は面食らうのを通り越して噴き出してしまった。 「なんで笑うんだよ? 俺、マジで本気なんだぞ?」 「いや、ごめん。遺伝子レベルで一目惚れって……拓也くん、おもしろいね」 「千尋、本気にしてないな? よぉし、待ってろ。俺、いつか絶対法律変えてお前にプロポーズしに行くからな!」 「ふふ、いいよ。そしたら結婚しよう」  拓也と結婚したら、それはそれで楽しいかもしれない。  千尋は心の片隅でそう思った――。

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