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ブラックな職場の憧れの人

イタリアで「おしゃれの王道」と言われる色合わせ、「アズーロ・エ・マローネ」。 チャコールグレーのオーダーメイドスーツに、「アズーロ」にあたる淡いブルーのシャツ、「マローネ」の意の茶色いネクタイという、上級者向けのスタイリング。 それを難なく着こなす人を、俺は二人、生で知ってる。 どや! っていう勢いで着るのではなくて、それはそれはもう、純日本人のくせにさも当然のようにイタリアの伊達男よろしく、さらりと着こなしているのだ。 惚れるだろ。 どちらの職場関係の人。 一人はモデル顔負けな長身頭身の美丈夫で、もう一人は涼やかな美人な男。 しかも二人そろって、山のように伝説を積み上げるくらいに仕事できるし。 特殊な職場なので詳細を語るのははばかられる。 けれども、ざっと把握してもらうとするならば、国民皆さんにお支払いいただいた税金の使途詳細を明らかにできない部分から給料をもらっているようなお仕事、と説明するしかない。 なので某一部の皆さまには、あまり明細明細とがんばって欲しくないところ。 そういう日陰の部分があるのもまた仕方のないことと、そっとしておいてもらいたい。 ほら、アメリカのアクション映画にも、あるような、ね、そういうこと。 そんな職場で一目置かれるような、すげえ人たち。 惚れるよな。 だがしかし! 憧れはあくまで憧れで、彼方遠くから憧れておくべきである。 っていう、至極単純なことを、俺――田中文紀は最近、強制的に知らされました。 そういう真理があるってことは知っていたけど、無理やり実感させなくてもいいんじゃないかなって、天を仰いだ。 俺はとても平均的な日本人なので、人知を超える何かはあるかもしれないけど別に信心深いわけではないから、こういっても罰は当たらないと思う。 神様のバカやろう!! 俺は多分、エリートと呼ばれる職場に就職したはずなんだけどな。 したはずなんだよ。 あのキツイ就職資格試験は何だったんだろうな。 資格取得して、その上に採用試験を受けて、配属前に研修やら適性検査やら山ほど勉強させられたのは、こんな苦労をするためじゃない筈なんだけどな。 そうは思っていても仕事は仕事なので、呼び出されれば、足を運びますとも。 昨夏から何度も浮かんだ疑問を、今日もかみしめて呼び出された場所に向かう。 守秘義務しかない職場なのはわかってる。 ブラックと呼ばれても不思議じゃない職場環境なのも、取引先というか仕事相手が癖とアクの塊みたいなとこばっかりなのも知っている。 だいたい、今日呼ばれたとこを担当してた俺の前任者は、精神的に追い詰められて辞職した。 曰く 『自分は葉っぱ隊になるために公務員になったわけじゃない!』 とかなんとか。 引継ぎの時は何をふざけているんだと思ったけれど、今となってはよくわかる。 あの先輩、いきなり消息不明にならずに引継ぎしてくれただけで、褒めたたえたいくらいに頑張ってくれたんだなあ。

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