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それではゆっくりいたしましょう

   ええと。  ものすごい即答が返ってきたんですけども。 「え?」 「だから、世界征服」  聞かなかったことにしていいデスカ。  っていうか、もう、ここにいること自体、なかったことにしていいデスカ。  この人がまともだと思った俺がバカでしたね。  この屋敷で執事してるくらいだもん、それなりになんかありますよね。  ええ、そうじゃないかと思ってましたけどうっかり忘れてましたね俺がおバカさんでした。 「田中?」 「はい」 「嶺音の才能をうまく使えば、できると思わないか?」 「のーこめんとでおねがいします」 「棒読みだよ、田中」 「気のせいです」 「そうか」 「はい」  原島さんの顔を見ないように視線をそらせて、答える俺。  その俺の顔を、わざわざのぞき込もうとする原島さんの無言の攻防は、しばらく続いた。  っていうかなにこれ。  俺、この人に遊ばれてる?  遊ばれてるよね。  必死になってそっちに集中してたら、不穏な音がした。  ちゅ。  ちゅ。 「深律、腹減ってきた」 「嶺音……」 「ご褒美ないと、これ以上は無理……」  なんですと?!  びっくりして視線を向けたら!  まぁ、なんということでしょう!  だよ!!  また!  まただよ、床に中村さんを押し倒して、スカートの中に潜り込む嶺音の姿!  えええええええ?!  ここ、キッチンですけど??  っていうか、待って、マジ待って、ちょっとまだ俺ここにいるから! 「場所を変えようか」  揃えられていた分の紙束を、素早くテーブルの上に避難させた原島さんが、俺の腕をとった。 「へ?」 「あちらはこれからしばらく、お忙しいようだから、そっとしておこう」  や、それはいい。  それはいいんですけど、なんで原島さんは俺を捕まえて歩いて行こうとしてるんでしょうかね?  どこ向かってるの? 「は、原島さん? それなら俺はもう、今日は戻ります」 「まだ、話が途中だから」 「話?」 「そう。素直についておいで。それとも俺が抱えあげたほうが早く移動できるかな?」 「なんでそんな急いで移動を……」  するんですか? と口にする前に、「ぁあ…ん」なんて不埒な声が聞こえてきて、俺の顔がぼわって熱くなった。  ええええええ?  いきなり始まってるし!  そこ、寝室じゃないでしょ。  床の上でかよ! 「ホントにお前は……」  俺の顔を覗き込んだ原島さんが、ため息をつきながら笑った。 「あっちはそういうわけなんで、速やかに移動する」 「……はい」 「で、こっちはさっきの話の続き」 「はい?」 「俺の夢を聞きたいんだろう?」 「え……と?」  顔が熱い。  聞こえてくる嬌声が甘くて、耳をふさぎたくなる。  困ってしまって原島さんのことを見かえしたら、よいしょと荷物のように抱えあげられた。 「お互いが納得いくように、ゆっくりと話をしようか」  って。  え。  えええええええええ??  ねえ、これは何ですか。  これからどうなる?  どうする俺?  俺の運命やいかに?!  パニックに陥って運ばれながら、それでも俺はどっかで知ってた。  この人、色々本気で変だから。  だから俺のことも本気で口説く気だろうなって。 <END>

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