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3.新しいフィルム side,加茂
「陽仁様、今日の午後、新しいフットマンが挨拶に来ます。」
ベッドで英字新聞を見る主人に話しかけると、パッと顔が上がった。
「新しい子を雇ったんですか。」
少し嫌そうな顔と、どこか期待の視線がある。
「はい。春尚様のご意向で。」
春尚様というのは主人の父、この藤嶋グループのトップに君臨する一言では言い表せないぐらい自由で、そして素晴らしい人だ。
「父が・・・・。実也子さんは、納得なさってるんですか」
実也子様というのは春尚様の後妻の方で、主人とその弟の駿仁様に血縁関係はない。
実也子様と血縁があるのは末娘の春実様だけだ。
「実也子様たってのご希望だそうで。」
「こんなに使用人を増やしたとて、何が変わるわけでもないのに。」
血縁がないせいか、主人と駿仁様は特に実也子様と反りが合わない。
現在実也子さんは春尚様と春実様と一緒に別邸に住んでいるが何かと主人が住むこの屋敷のことに口を出してくる。
「加茂、貴方が教育係ですよね。フットマンは仕事量が多いので注意してあげてください。」
あぁ。なぜこんなにも優しい心を持っているのだろうか。
きっとこれも彼奴のおかげなのだろう。
前は私が彼奴に教わっていた。彼奴が、主人のバトラーだった。
彼奴は毎度、こういう優しい言葉を主人に言われていたのだろう。
唇を噛んで、血が滲む。
「加茂。どうした。口から血が。」
白色のハンカチを取り出す主人がもどかしい。
「陽仁様。申し訳ありません。ありがとうございます。」
白いハンカチが血で汚れて行く。
私の不純な気持ちが、私の心をも飲み込んで行く。
「時間になりましたら、連れてきます。」
そう言って、部屋を出た。
苛立ちでどうにかなりそうだ。
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