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第33話

 夏樹は上機嫌のようで、運転しながら楽しそうに歌っている。  何の歌か私にはわからないが、窓を開けているから外にまで聞こえていると思う。下手ではないが、だんだん声が大きくなってきているので、少し耳が痛い。 「少し黙ってもらえますか? 耳が痛い」 「あ、わりぃ」 「というか、何の歌ですかそれ?」 「知らねぇのか? 遅れてるなぁ、CDもあんだぞ」 「知らないですよ。誰の歌ですか?」 「おれだ」 「……音楽活動してましたっけ?」 「いいや。家のパソコンで焼いてみただけだ。録音中にまめたが吠えたし、父ちゃんの車のクラクションが入ったし、母ちゃんが皿わったし、ふゆが部屋の掃除してたから掃除機の音も入った。すごいだろ」  何と答えたら正解かわからない。何で録りなおさずに焼いたのかは聞かないでおこう。面倒臭い。  他愛ない話をしている間にカーナビが「目的地周辺に辿り着きました」と言ったのに対し、夏樹は「ありがとな。グリーンクイーン」と答えていた。 「グリーンクイーンって何ですか?」 「この車の名前」 「は?」 「緑だし、ちょっとオシャレだろ? だから、グリーンクイーン」 「ダサい」 「え。これでも3時間かかって考えたんだぞ! 他にも候補として、グリーンパイレーツ、エメラルドオーシャンがあった!」 「……ついでに聞きますが、まめたの名前を決めたのは誰ですか?」 「あれはふゆが決めたんだよ。おれは、ブラックハリケーン号かファイナルブラック号が良いって言ったのにさ。父ちゃんも母ちゃんもふゆも反対したんだ。かっこいいと思うんだけどなぁ」 「本気でかっこいいと思ってるんですか?」 「かっこいいだろ?」 「私がその名前をつけられたら、与えられた飯を食べずに餓死を選びますよ」 「おまえが飯食わないって、そんなに嫌なのか!」  とてつもない勢いで驚かれたんだが、そんなに意外だったのか?  車を降りて、定食屋に入る。ちょうど2人席が空いていたので、すぐ座ることができた。 「カレイの煮付け定食と唐揚げ定食を1人前ずつ。あ、唐揚げ定食のほうはご飯大盛にしてください」  夏樹が勝手に注文してくれたので、手を拭いて、水を飲む。彼はおしぼりで何か作ろうとしていた。三角形に折って、まるめて……鳥か? 「じゃーん! おしぼりひよこ!」 「で?」 「ふゆに教えてもらったんだ。可愛いだろ?」 「そうですね。夏樹のほうが可愛いですよ」 「ふぇっ!?」 「何ですか?」 「い、い、いや、いきなり何言うんだよ。びっくりして、ひよこちゃんが解体されちまっただろ」 「自分が可愛いって自覚はあったんですか」 「……おれ、力無いし、こう、しゅっと筋が通ってねぇし、背も低いし、かっこよくはないかなって。それに、皆『かわいい』とは言ってくれっから……、うん。正直ビミョーな気分にはなるんだけど……」 「私にはかっこよく見えますよ。ばかですけど」 「何だよそりゃ」 「容姿は確かに『可愛い』だと思います。でも、中身は『かっこいい』と思います。ばかですけど」 「その『ばかですけど』を外してくんねぇの?」 「ばかですからね」 「そっか。でも、ま、小焼がかっこいいって言ってくれんなら、かっこいいんだな、バカだけど」 「ええ。ばかですけど」 「でもな、バカって言ったほうがバカなんだからなぁ!」  夏樹はそう言いながら笑った。人懐こい犬のような笑顔だ。頭を撫でてやりたいが、少し距離が遠いから後で撫でておこう。  店内のテレビでは、ニュース番組を流していた。ちょうど、昨日の川の話をしている。あの女の子は一歩対応が遅れていたら亡くなっていたが、適切な対応があったことで一命をとりとめたらしい。学校で記者の一人に聞いた内容だな。母親が涙ながらに感謝の言葉を伝えていた。 「アンナちゃん助かって良かったな」 「そうですね」 「おまえ、何貰えるか楽しみだな」 「……そういえば、夏樹は何も貰えないんですかね?」 「おれは何もしてねぇからさ。記者の人もおまえにしか聞いてなかったろ?」 「夏樹が何も言わなかったからでしょうが」 「えー? そうだっけ? まっ、おれは良いよ。小焼が全部貰っといてくれ」  そんな会話をしている間に、テーブルに夏樹の頼んだカレイの煮付け定食が届く。  夏樹が珍しく激辛料理以外を食べていると思ったが、定食屋に激辛メニューが無かったからだな。  彼の前に置かれたカレイの煮付けは、店の照明で、輝いて見えた。白い湯気がほのかに上がっている。醤油の香りが漂ってくるので、甘辛く煮込まれているのだと思う。けっこう脂がのっていそうだ。きんぴらごぼうのにんじんの色が綺麗だ。冷ややっこには鰹節とおろし生姜、ねぎが乗っていたが、夏樹はねぎを箸で押しのけていた。  どれも美味そうだな……。涎が出そうになったところを飲み込んだところで、私の唐揚げ定食が届いた。 「ごはんと汁物のおかわりは自由になっておりますので、是非ご利用ください」  ふくよかな女性が笑顔でそう告げて去っていく。  手をあわせて、いただきます。  唐揚げから生姜の香りが強くする。肉の臭みを消す為か、それとも味を引き出す為か。どちらにしても、とりあえず口に入れてみる。歯に衣が当たった瞬間、ザクッとカリッと、音が鳴る。少し厚めの衣で、やや硬く揚げられているようだ。崩れた衣から肉汁が溢れだしてくる。衣がやや硬かっただけあってか、その反動で肉がとても軟らかく感じられる。噛む度に肉汁と生姜の痺れるような風味がする。生姜以外にも何かを使っていそうだ。唐辛子か? 微かな辛味が心地良い。  夏樹はカレイの骨取りに必死になっているから話しかけるのはやめておこう。  キャベツの千切りにマヨネーズをかけて、供する。シャキシャキした歯ごたえのキャベツだった。機械でカットされたものではなく、店の中できちんと下処理をして、氷でしめたものなんだと思う。鮮度が良いし、断面も変色していない。きっと包丁をきちんと研いでいるんだと思う。  味噌汁の具材はわかめと豆腐だった。出汁の風味がよくきいている。わかめの色が綺麗な緑色だったので、好感が持てる。ずっと入れっぱなしで火にかけていると変色していくからな……。後入れにしているんだな。ふと、奥のおかわりコーナーに目をやる。わかめだけ別のケースに入っているのが見えた。……サービスが良いな。  ご飯が美味い。噛み締める度に米の甘味がする。この定食屋は良いな。また来たい。 「小焼ぇ、骨が取れないぃ」 「医者なんですから魚の解剖もできないんですか?」 「外科は専門じゃねぇもん。皮膚にメスがプツッて入る感覚にゾワゾワすんだよぉ」 「……もう骨ごと食べたらどうですか? 身長伸びるかもしれないですよ」 「これで伸びるなら食うけど、伸びないだろ」 「そうですね。まったくもう……」  カレイの皿を取る。夏樹がぐちゃぐちゃにしているので、無残な死体に見えてきた。あんなに美味そうだったのに、なんだこれは……。 「エンガワを押さえて少しずつ食んでいけば良かったのでは?」 「エンガワ? お茶すするところか?」 「……ここ」 「へえー」 「夏樹。栄養士免許持ってますよね……?」 「おう。調理学は欠点ギリギリで単位取れた」 「まあ良いです。だいたいの魚に共通するから教えといてやりますが、魚の真ん中に箸で切れ目を横一文字に入れて、二等分にして、半身ずつ食べたほうが骨を取りやすくなります。半身食べたら、尾びれを掴み、曲げて、骨を一気に外す。頭を手で押さえたほうが取りやすいと思います。ひっくり返さなくても、このまま食べられます。というわけで、死体をお返しします」 「おー! 骨が取れた―! ありがとな!」 「小骨はまだ残ってるので、気を付けてください」 「刺さった!」 「ばか」  溜息しか出ない。でも、悪い気はしない。夏樹が側にいればさみしくない。  目の前でまた骨と戦っているが、なんだか子供のようで愛らしく見えてきた。年上の『お兄ちゃん』だってのに。  どうでもよくなってきたから、おかわりに行こう。  大釜で炊かれた飯は美味いものだ。ご飯は多く炊けば炊くほど、美味い。そんなことを誰かが言っていたような気がする。そういう飯は握り飯にすると良い。米の甘味だけでしっかり腹が膨らむからだ。  ご飯と味噌汁をおかわりして席に戻る。夏樹の前の皿は散らかったカレイだけになっていた。 「ごちそうさまー!」 「カレイが無残ですね」 「家で食べるよりは綺麗だぞ! 小焼が骨取ってくれたから!」  伊織家の食卓を思い出す。そういえば、家族全員が大雑把だったな。骨無しの調理済みを買うという裏技まで発揮する程度には、骨取りが苦手な家族だ。  おかずは全て食べ終えたが、まだ腹は空いている。おかわりを取りに行く。  ご飯と味噌汁だけでも食事はできる。なんなら、ご飯もおかずになる。醤油も塩もマヨネーズもソースも、ここには常備されている。 「おれ、タバコ吸ってくるよ。ゆっくり食っといてくれ」 「まだ足りないです」 「ん。好きなだけおかわりしな」  タバコの入ったポーチを手にして夏樹は席を立つ。あのポーチ、私が数年前に夏樹の誕生日にプレゼントしたものだったな。まだ使ってたのか……。新しいの買ってやるか、次の誕生日にでも。  おかわりを取りに行く。釜の底が見えていた。他にも客はいるし、おかわりしている客も大勢いるんだな。わかめが無くなっていたので、代わりに巻き麩が置かれていた。味噌汁に入れると解けて伸びていく。見ていて少し楽しい。  夏樹が戻ってきた。タバコのにおいが微かに鼻をつく。悪い香りではないが、食事中は風味にやや影響するな……。味噌汁は美味いし、飯も美味い。 「この店、気に入ったか?」 「はい。美味しいです。他の物も食べてみたい」 「そりゃ良かった。新装開店したっていうから気になってたんだけど、一人で入る勇気無くってさ、おまえが一緒なら行けるかなって思ってたんだ」 「定食屋なんですから、一人客も大勢いますよ?」 「そうだけど、おれ、なんか知らねぇけどこういうとこに来たら、ご飯を少なくされんだよな……。でも、今日は普通の量だった。多いくらいだ。だから嬉しい」  サービスのつもりで少なく盛っているのかもしれないが、余計なお世話だな。しかし、残されるよりはおかわりで調整してもらったほうが良いのか? 店側も色々考えないといけないのか。 「まだ食べて良いですか?」 「ん。良いよ。待ってるから」 「では、取ってきます」 「お客様すみません」  席を立ったところで、ふくよかな女性に呼び止められた。  夏樹が苦笑いしている。 「ごはんが無くなってしまって、今新しいのを出すので、少々お待ちいただけますか?」 「待っていたら、まだ食べて良いんですか?」 「もちろん!」  ここはとても良い店だ。リピートは確実だな。  数分待って、ふくよかな女性がご飯を持ってきてくれた。ついでに待たせたお詫びとして、注文ミスで作った激辛ポテトを「ないしょよ」と言いながら持ってきてくれた。夏樹が嬉しそうに頬張っていた。腹いっぱいになったんじゃなかったのか? まあ、良いか。  満足したので、夏樹に支払いを頼んで先に車に向かう。……今日は月が見えるな。 「おー! 月が綺麗だな!」 「そうですね。団子が食べたくなります」 「あはは、そう言うと思った」 「月を見ながら食べる団子は格別に美味いですから」 「でも、おれは、そっちの意味で言ったんじゃねぇぞ!」 「……お前と一緒に見る月は綺麗です」 「ありがとな!」  話をしつつ、車は動き出す。  信号待ちでタバコに火がついた。煙が車内を漂う。 「げほっ、けほんっ、窓、開けてくださ、い」 「わ、わりぃ!」 「何でいつも先に開けないんですか」 「いつも一人で乗ってっからさ。もしくはふゆぐらいだし」 「私も乗るでしょうが」 「ん。そうだな。恋人だもんな」 「強調して言わなくていいです。……このこと、家族には言うんですか?」 「おっ? んー、言わなくてもわかってんじゃねぇかな。おれが小焼のこと大好きってことは、みーんな!」 「とりあえず、母に連絡しておきますね」 「ちょ、ちょっと待て。おまえの母ちゃんに連絡するのは待て。時差を考えずに夜中に電話かかってくるから!」 「それもそうですね……」  今の時間なら、向こうは何時だ? ロスは早朝だろうな、今はパリだったか。昼時か? ミラノと同じだったような……。どれにしても、母が夏樹に電話するとしたら、こちらは夜中だ。  父にメッセージを送っておくか。父なら常識的な時間に母に伝えてくれるはずだ。ついでに、今度はいつ帰ってくるか聞いておこう。川釣りに行きたい。 「あ、そうだ。これ、さっきの店のレシート」 「奢ってくれるんですよね?」 「おう。請求してんじゃねぇよ。ほら、裏面見てくれ」  夏樹からレシートを受け取って、裏返す。赤いボールペンで、長めに走り書きがされていた。 『本当は、おかわりは3回までだけど、川でのニュースとネットでの二人の愛の話を見て、おばちゃんは嘘をつきました。これからも二人でお幸せに! またのご来店お待ちしております。おばちゃんがいない時は、おかわりは3回までだからね!』  ……回数制限があったのか? 愛の話って何だ? まっ、良いか。あのふくよかな女性がいたら、おかわり自由だということがわかった。シフト制だろうか……。どの曜日に出勤か調べないといけないな……。 「またあの店行かなきゃいけねぇな!」 「そうですね。あのふくよかな女性がいる時に」 「本人がいる時には、ふくよかって言うなよ。失礼だ。巨乳のおばちゃんだろ」 「巨乳のおばちゃんも失礼ですよ」 「巨乳は褒め言葉だろ!」 「セクハラだと思います」 「あ、そっか。そうなっちまうのか……。うーん、おばちゃんがいる時にまた行こうな。おれ、今度はカレー食べたい! 辛さ20倍のやつ!」 「そんなメニューありましたっけ?」 「喫煙スペースの貼り紙で、予告されてた! あ、あと、和菓子もあったぞ。豆大福も見た」 「それは行かなければなりませんね」 「だろ? でも、あのおばちゃんがいなかったらそんなに食えねぇぞ」 「おかわりは3回までってことは、茶碗に押し込むしか……」 「飯をぎゅうぎゅうにしてまで食いたいのかよ!」 「美味しい食事はいくらでも食べたいです」 「あいあい。ほんっと、おまえは食いしん坊だよな」  ――でも、そんなところも好きだぞ!  付け足して、夏樹は笑っていた。楽しそうでなによりだな。  なんだか、落ち着く。誰といても気をつかうのに、夏樹の隣なら力が抜ける。不思議だな。水の中のように心地良い。何も考えずにいられるから良い。  信号待ちなので、手を伸ばして頬を撫でてやる。嬉しそうにしている。 「もう、どうしたんだよ? くすぐったいだろ」 「触りたくなったので」 「おっ。セックスするか?」 「それはまた今度にしてください。明日は朝からなんです。バイトもあるし、今日泳がなかった分泳ぎたい。あと、ゴムも無いから買いに行かないと……」 「ん。そっか。ヤりたくなったらいつでも言ってくれな! おれの宝剣はいつでも準備オッケーだ!」 「夏樹はやっぱり去勢手術したら良いと思います」 「ンなこと言わねぇでくれよ!」  もっと触りたくなったのは事実だ。腹の奥がさみしいのも事実だ。  でも、そればかりしてられない。体がもたなくなる。  けっきょく家まで送ってもらったので、釣り具も引き取った。 「そんじゃ、また明日な」 「お別れのキスしないで良いんですか?」 「する!」  車を降りて飛びついてきた夏樹を抱きとめる。本当に犬のようだ。頭を撫でたら胸に顔をすり寄せていた。 「あー、おっぱいだー」 「殺すぞ」 「ひぃっ! ごめんって! でもさ、良いおっぱいなんだもん……。あ、勃った」 「ここに枝切りばさみあるんですが……」 「嫌だぁ! んぅっ、ンン、ん」  キャンキャンやかましいから、黙らせよう。  唇を重ねて舌を絡ませる。少し辛い。激辛ポテトのスパイスの味か。首に腕が絡みついてくる。気持ち良い。頭がふわふわしてくる。 「おまえ、やっぱりキス上手いな……」 「何と比べて上手いかわかりませんけど、私の脚に宝剣を擦りつけるのやめてくれませんか?」 「うー、だってぇ」 「……『ハウス』」 「わかったよ。帰る……」  八の字に眉を下げて、夏樹は車に引き返していった。無いはずの犬耳が垂れて見えるし、尻尾も巻いたまま動かないように幻視した。 「夏樹の『ハウス』は、ここじゃないんですか?」 「あがって良いのか?」  すぐに元気よく車から戻ってきた。尻尾をぶんぶん振っているように見える。無いはずなんだが、おかしいな……。 「見ててやるだけですよ」 「おう! それで良いよ! 見ててくれ!」 「とりあえず、車をこっちに入れてください。私は先に荷物片づけてきますから」 「すぐに入れる!」  夏樹が車に走っていったのを見届けて、私は家に入る。釣り具を父の部屋に放り込んで、洗いものは全て洗濯機に投げ込んだ。軽くなったボストンバッグを担いで自分の部屋へ向かう。  出しっぱなしにしていたアナルプラグを片付けて、持っていっていた諸々を元の場所へ戻す。ローションも買い足しておかないとな。  そうこうしている間に夏樹が部屋に入って来た。 「お待たせ!」 「別に待ってないですよ。『お手』」 「ほい」 「『ちんちん』」 「おっ、待ってくれ。今脱ぐから」  夏樹はズボンと下着を脱いで、服をたくしあげて、既に勃ちあがりきている宝剣を見せてくれた。呼吸が荒くなっているが、興奮しているだけだから、問題無いな。 「見せて喜ぶなんて、ド変態ですね」 「小焼だからだ」 「へえ。じゃあ、『ターン』」 「よし! 見てろよおれのトリプルアクセル! あいたっ!」 「できもしないことを下半身露出しながらしないでください」 「うぅ、おまえがやれって言ったんだろ……」  ジャンプしろとは言ってないしな。 「『お手』」 「ほい!」 「『おかわり』」 「あい!」 「『おかわり』」 「ん? 同じ手で良いのか? ほい」 「『おかわり』」 「あいあい」 「『おかわり』」 「何回おかわりさせんだよ!」 「4回ですね」 「多いんだよ! せめて『お手』を入れるか連続3回までにしてくれ」 「わかりました。おかわりは3回までですね」 「ん。それで、おれはこれどうしたら良っかな? 見ててくれるのか?」 「見ててあげますよ。変態」 「すっげぇ、ゾクゾクする……」 「恥ずかしいって言ってたのはどこに消えたんですか?」 「いや、けっこう恥ずかしいぞ。でも、なんというか、すっげぇゾクゾクする!」 「さっさと終わらせて帰ってください。私はもうシャワー浴びたら寝たいです」 「おっぱい揉みたい」 「えっちなことは駄目です」 「うっ、破壊力……」 「……私の部屋の床汚さないでください」  カーペットが夏樹の精液で汚されたから、明日洗おう。  けっきょく、彼は3回ヌいて帰った。まだシたそうだったが、帰した。  さすがに昨日の今日でセックスをしようとは思わない。腹の奥がさみしい。腹の虫が鳴いていた。  窓から月明かりが射しこんでいる。 「……死んでも良いかもな」  今夜は、月が綺麗だ。 完(食)

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