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バカと返せない赤い傘
結局はもやもやとした気分のまま、俺は壱人から借りた壱人の彼女の傘を差して帰路に着いた。できれば感傷に浸りながら雨に濡れて帰りたかったけど、この本降りでは傘を差すしかしようがない。
壱人たちが帰る時には小雨だった雨も、俺が帰る頃には本格的にザーザー降り出した。
時間はいつもの放課後と同じ、午後4時を少し過ぎたくらい。いつもならまだまだ明るい時間帯なのに、今日は雨が降っているからかなんだかどんよりと薄暗い。
いつもの透明のビニール傘とは違って、真っ赤なそれは少し恥ずかしくもあり。いつもより少し早足になりながら、俺はいつもの帰路を急いだ。
(なんでこうなるかなあ……)
通学路の途中にあるコンビニに寄っていつものビニール傘を買おうと思ったけど、結局はやめにした。いつもの傘より少しだけ重いはずの傘だけど、持ち主のことを考えると何故だか余計に重くなる。
今回の壱人の彼女、結木 さんは学校でも美人で有名で壱人の彼女にしては少し珍しい。壱人の好みはどうやらごく普通で大人しい子らしく、歴代の彼女を思い返してみればほぼ全員が普通で平凡な女の子だから。
それだけに壱人と付き合い始めた後の他の女子からの嫉妬が酷くて、彼女はいじめが原因で壱人と別れることになる。そう考えると今回の彼女の結木さんは見た目の好み云々じゃなく、本当に巨乳だけがよくて付き合い始めたんだろうか。
だとしたら好敵手 ながら同情してしまうんだけど。頭上に大きな雨粒が落ちてくる音を聞きながら、そんなことを考えているうちに家に着いた。
結局のところ夏休みの一日目は散々な一日だったわけだけど、よくよく考えてみればいつもの日常と変わらない。今回の彼女は俺と同じクラスだから、彼女とは夏休み前にも毎日、顔を合わせていたし。
おまけに彼女は俺が壱人の幼なじみであることも知らないようで、顔を合わせても何も言っては来ない。話し掛けられたら話し掛けられたらで話すことは何もないんだけれど、そう考えればなんともやる瀬ない気がしてくる。
「ただいまー」
浮かない顔で玄関のドアを開けたら、
「おかえりー」
居間の方から懐かしい声がした。
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