7 / 138
06
けっこう力任せに押されて、思わず奇声をあげてしまった。ってか、ただでさえ低い鼻が絶対いまので潰れたし!
「な……、でっ!」
振り返ってなんだよと文句を言おうとしたら、今度は何か鈍器のような物で後頭部を軽く殴られた。
(ちきしょー、誰だよ。奇襲するなんて卑怯なやつは)
心の中で独りごちながら顔を上げれば、教室を出て行く壱人と彼女の背中が目に入る。
「お先」
壱人も俺と同じ、ほぼ全教科が補習のはずだ。
(なんだよあいつ。サボる気かよ)
心の中で悪態をつき、俺は何気なく机の上を見た。
「あ、おい!」
俺を殴ったであろうその忘れ形見(凶器)は赤い折り畳み傘で、思わずその傘を引っつかんで壱人の後を追った。
あれから少し時間が経ち、今はだいぶマシになってはきてるけど、この調子だと今日は一日、雨が降りそうだ。この折り畳み傘はおそらく彼女の物だ。だって、壱人は登校時に傘を持っていなかった。
下駄箱の所でなんとか二人に追い付き、壱人の腕を強く引く。振り向いた壱人は一瞬驚いた顔をしたけど、手にした傘を差し出すとふっと鼻で笑われた。
「差してけ」
「あ、でも。そしたらおまえらが」
「走るし。小降りだから」
壱人はそう言って、着ていた制服のワイシャツを脱ぐ。そうやって黒いTシャツ一枚になると脱いだワイシャツを彼女の頭上に翳 し、
「おまえ、すぐに風邪をこじらせるだろ」
そう言って、俺の頭をぽんと軽く叩いて小走りに下校してしまった。彼女を懐 に隠してかばうようにしながら、校門の向こうに消える二人。
「――――っっ」
……バカ人。この傘、お前のじゃないじゃん。
彼女をかばう壱人の姿に胸が痛んだ。壱人は昔からぶっきらぼうで冷たく見えて、いざという時にはとても優しいやつだ。中途半端な優しさをくれても、彼女との仲よさ加減を見せつけられたらただ胸が苦しくなるだけだ。
初日は結局、お昼を挟んで普通の時間割と同じだけの時間の補習を受けた。一時間目のプリントも微妙なできだったが、その後のプリントが散々だったことは言うまでもない。この調子だと、今年の夏休みは補習だけで終わってしまうかも。
(……まあ、補習をサボってる壱人も同じか)
俺は力任せに地面を蹴飛ばした。
ともだちにシェアしよう!