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05
あんなに自然な壱人の表情 、久しぶりに見た。壱人のあの笑顔を見なくなって何年になるだろう。同じ話題に笑い合っていたのも遥か昔のこと。そう思うと何故だか切なくなる。
今にも泣き出しそうだった鈍色の空。その空が補習授業開始のチャイムをきっかけに、とうとう泣き出した。
基本的に補習といってもそれぞれの補習教科のプリントが配られてそれをやるだけで、実質的には自習に近い。先生はただ監督として立ち会っているだけで、教室の後ろで腕組みをしてただ突っ立っている。今回の時間はうちの担任の『ヤマセン』こと山田先生の担当で、ヤマセンは腕組みすることでいつもの凄みが倍増してるし、なんだか全然落ち着かない。
ただ、出席時間が足りてない生徒は同じ時間分の補習を受けなくちゃいけないけど、赤点の生徒は合格点を取ればそこで補習授業は終わる。言い換えれば及第点を取るまで補習は続くわけで、おバカな俺は全く終わりが見えなかった。
「はい。そこまで!」
終業終了の合図であるチャイムが鳴り、一時限目の補習授業が終わった。一教科だけ赤点の生徒は取りあえずは採点待ちでこのまま帰れるけど、他の教科も赤点の生徒や出席時間が足りない生徒は続けて補習を受けることになる。
俺はと言うと当然のようにこの後も何教科も補習が決まっていて、どうやら最後まで居残ることになりそうだ。
「米倉、どうだった?」
「……聞いてくれるな」
橋本の言葉にうなだれて、がっくり肩を落とすおバカな俺。赤点ぎりぎりならまだしも、何点も足りていない俺がいきなり及第点を取れるはずがない。
「まあ、がんばれよ。俺は仕方ないから部活行くわ」
薄情者の橋本はそう言うと、俺の頭をぽんと叩いて教室から出て行った。
どうやら雨は本格的に降り始めたようで、ザーッとお決まりの音を立てながらバケツをひっくり返したように降り続いている。都内屈指の名門らしいうちの野球部には雨天練習場が用意されていて、今頃、橋本は練習に明け暮れているんだろう。
話し相手がいなくなり、休み時間だというのに急に暇になる。仕方がないから手持ち無沙汰に机にうなだれていたら、
「……ぶっ!」
不意に上から後頭部が押された。
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