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気まぐれ猫を忘れる方法  どうしてこんな時でも笑っていられるんだろう。自分の神経の図太さに思わず笑ってしまう。 「そっか。橋本は本気でやってたんだ」 「当たり前だろ。これでも、中学まではエースピッチャーだったんだから」  いつもの補習授業の休み時間。俺と同じでいまだに及第しない橋本と二人、馬鹿話に花が咲いた。因みに橋本は英語と数字だけで、俺は全教科の違いはあるが。壱人は壱人で、いつもの席で彼女と顔を突き合わせて何やら楽しそうに会話している。  あれから何日かが過ぎた今も俺の悩みが解決したわけじゃない。できるだけ二人と目を合わせないようにはしているけど、今だってあいつらは視界の隅っこでいちゃいちゃしているし。  俺が思った通り、壱人から俺に話し掛けてくることはなかった。よくよく思い起こしてみると壱人に彼女ができた頃からそうだ。  なんだ。やっぱり俺の独りよがりだったんだ。壱人が律義に返事を返すから、嫌われてはいないと錯覚していた。だけど壱人は俺には用はないようで、一切あっちからは話し掛けては来ない。  壱人は子供の頃から気まぐれで、まるで猫のようだった。自由に行き来していた壱人の部屋にも、壱人の機嫌が悪い時には入れてはもらえない。  俺みたいに優柔不断で中途半端なところもなくて、嫌なこともきっぱり断ることができる。そんな壱人に憧れてもいたし、考えて見れば俺は最初から壱人の全てが好きだったんだ。  壱人に初めて彼女ができた時、本当の自分の気持ちに気付いた。それからの壱人は彼女と行動することが多くなり、いつの間にか壱人は遠い存在になっていた。  俺が話し掛けるたびに普通に返事してくるから気付かなかった。会話の始まりはいつも一方的に俺から言葉を投げ掛けて、それに壱人が返してるだけだ。  一見して会話が成立してるように見えるけど、もしかして俺は壱人にうざがられていたのかも知れない。会話の間はたまに笑顔も見せるけど、そう言えば子供の頃のようにちゃんと目を合わせることもないし。

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